大規模修繕とは何か
建物はどのような建物であっても、時間の経過とともに、物理的(老朽化や事故・災害による破損など)、機能的(旧式化・設備性能の低下など)、経済的(地域の衰退、売却価格の低下など)に劣化していく。このような建物について、所有者は「適切に維持管理する義務」を*1負う。そして、建物の快適な利用や適切な維持管理のためには、定期的な建物の修繕は欠かすことができない。
修繕は、電球などの日常的な備品の交換や軽微な破損を回復する「修繕」と、十数年に一度、大規模な工事を行って建物自体の修復や設備を交換し、あるいは時代遅れの性能を改修して現在の新築建物に求められる標準的な性能に近づける「大規模修繕」に大別される(図表1)。
*1: 建築基準法第8条、民法第717条などに規定されている。
鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の寿命は長い
マンションを中心に話を進めると、国税庁によると、税法上のマンションの耐用年数(鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造)は47年であるが、税法上の耐用年数が経過した後も使用されているマンションも多い。
国内で最も古い鉄筋コンクリート造*2のマンションは、長崎県にある端島(軍艦島)のマンション群で、竣工は1916年から1959年、築年は64年から107年である。築年の古さに加えて、端島のマンション群は、建物にとっては過酷な環境に建っている。塩害による鉄部の腐食は建物を劣化させる大きな原因の一つであるが、大波をかぶり、強風にさらされている。それでも、いくつかの建物の躯体などの主要な部分は健在であり、現在でも観光ツアーなどで一般の人も立ち入ることができる*3。
全国に存在するほとんどのマンションは、端島よりも環境がよい場所に建っている。現在は、初めてマンションが建築された頃と比べ、建物の躯体を構成する建築資材の製造技術や建築技術は高度に発達している。つまり、鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造の建物は、よほどの事故等がなければ100年以上存続できる可能性がある。これを前提に、徐々に劣化する建物を快適に使うにはどうしたらよいかを考える必要がある。
*2:渡邊布味子『建築費高騰と不動産開発プロジェクト(後編)-建築費の高騰と建物の躯体別・用途別の影響』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年10月27日)
*3:木造と鉄骨造は相対的に耐久力が弱く、端島にかつて存在した木造、鉄骨造の建物も既に倒壊している。
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