前回は、M&Aの成否に関わる「会社と従業員の利害調整」について解説しました。今回は、「アフターM&A」で最も重要となる相続税対策について見ていきます。

事業承継が終われば「すべて完了」ではない

M&Aでは経済的なバランスを保てることがハッピーリタイアのための布石となっています。これは事業の承継だけではなく財産を守って承継するという考え方です。そのなかには社長本人が創業者利益を確保できるということも含まれていますが、実はそれだけではまだ財産は完全に承継までいき着いていません。

 

財産を承継するという観点からすると、創業者利益を得た後の行動についても考えなければいけません。というのも、創業者利益はある程度大きな金額に達することが多く、得た後には必ず税金の問題が絡んでくるからです。これは、いわゆるアフターM&Aの問題です。

 

まずは、利益として入ってくるお金が多ければ多いほど、課される税金も増加していきますので、それをただ甘んじて受け入れてばかりではせっかく得た財産が少なくなってしまうことが問題です。そこで、退職金などを利用して課税を抑えていくことが必要となってきます。これは書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』第1章でもご説明しました。

 

しかし本当にM&A後に大事になってくるのは、財産を本人が所有しているだけではなく、子に財産を継がせることです。財産の承継ですから、親から子に移すことができて完全に成立していくということになります。つまり、どうやって子に継がせるかというところも考えなければなりません。

 

事業承継は相続税対策も考慮して行わなければいけません。もし創業者利益を得たまま何もせずに相続が発生すれば、最高税率55%の相続税の対象となって大切な財産を守ることにも承継することにもなりません。

 

たとえば、M&A後から毎年110万円を子に暦年贈与する(毎年110万円までなら非課税であるため)とか、相続時精算課税制度を利用するとか、教育資金贈与を行うとか、住宅を取得するための資金として非課税枠を利用して贈与することなどを考え始めなければいけません。

 

だからこそ私たちは、相続税対策についても、アフターM&Aという位置づけで考えることにしています。そしてアフターM&Aのことを考えたときには、税理士の存在が重要になってくるのです。

相続税対策が「得意科目」である税理士に相談を

相続税の税務については、もともとお付き合いのある顧問税理士に対応してもらうということも可能ですが、M&Aを得意とする事務所などに依頼すれば、それこそワンストップで、M&Aの流れを踏まえて、どのように財産を承継していくべきかを考えてプランを提案してもらえるのでスムーズです。

 

よく、私の事務所に相談される社長から、「顧問税理士の手前、別の事務所には相談しにくい」というお話を聞きますが、そうした場合、会計や決算などの通常の税務は、もともと付き合いのある顧問税理士に引き続き依頼し、M&Aや相続については得意とする事務所に依頼することも可能です。

 

ちなみに、意外かもしれませんが、相続税というのは、どの税理士でも必ず対応できるものでないということはひと言付け加えておかなければなりません。ちょうどクリニックで内科、眼科、皮フ科、と専門が分かれているのと同じです。

 

税理士には得意な税目というのがあり、多くの税理士は法人税や所得税の申告を主たる業務にしています。相続税はそもそも案件数自体が限られていますので、相続案件が集まってくる環境でないと実務を学ぶ機会がないのが現状です。

 

そういった意味では、M&Aを得意とする事務所をアドバイザーとして選べば、アフターM&Aとして相続税対策に関わる機会の多い税理士からアドバイスを得ることもできます。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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