M&Aを行うにあたり最も考えなくてはならないのは、社長、従業員、取引先の全員が納得できる「落としどころ」を見つけるということです。本連載では、この三方が納得できるM&Aについて解説していきます。

誰にも「金銭的負担を負わせない」という着地点

以前の連載、「後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法」でも、M&Aのメリットを数多く挙げてきましたが、最も考えるべきは社長、従業員、取引先の三方をうまくよい落としどころに落ち着かせることです。そしてそれを目指せるのがM&Aの最大の魅力です。

 

よい落としどころとは何かというと、まずは金銭的な面で誰にも負担を背負わせないというところです。これこそ誰もが分かりやすい安定した着地点だといえるでしょう。

 

社長は創業者利益を確保し、従業員は雇用を継続し、取引先は得意先を失わないのですから、これに異を唱える人は多くないはずです。

 

そして、この三方よしの状態で引き継ぐということは、事業を次世代へと引き継ぐことと同義です。次世代とは必ずしも子だけのことを指すわけではありません。引き継ぎ先が第三者だとしても、今後の発展を見据え、勝算を緻密に計算した上でM&Aに踏み切っているはずですから、それは次世代への可能性に引き継がせているということになります。立派な社会貢献ではないでしょうか。

「息子に会社を継がせる」ことが最適とは限らない

心配するとしたら、そういった経済合理性に基づいた判断に、誰もが簡単に納得するとは限らないことです。社長であれば経済合理性を重視するのは当然だと思うのですが、家族がそれだけで首を縦に振らないということがあるのです。

 

奥さんは子に継いでほしいと考えることもあるでしょうし、子は自分が何とか頑張るから継ぎたいと意志を示すこともあるでしょう。これは経済云々ではなく、感情論であり、気持ちの問題です。もちろん、それが社長本人としてもベストだと判断すれば、親子承継で進めていいと思います。ただし、社長でないと分からない部分は大いにあるはずです。

 

創業時に苦労し、時代の転換期を乗り越えるために尽力し、会社の存続、維持、発展に対して妥協なく考えてきた人だからこそ分かる、現在の経営状態における自社の最善策というのが、きっとあるはずなのです。

 

それを感情論にほだされて曲げてしまうといい結果が付いてこないのは想像に難くありません。親子承継をしてもうまくいかない危険性はあるのですが、そういった可能性は大いに視野に入れないといけません。

 

社長と比べたら圧倒的に不利な立場にいるのが2代目です。中小企業にとって厳しい経済環境のなか、グローバル化の波も大きく押し寄せてきています。経験値の薄い2代目が会社をうまく引き継ぎ、舵取りをしていくというのは思った以上に大変なことです。

 

社長が若いことで、新たなアイデアやエネルギーが生まれることもありますが、それだけで経営が万事うまくいくような甘い世界でないことは誰もが承知のはずです。

 

三方よしの結果を求めるなら、まずは経済合理性を優先していいと思います。根拠のない感情論は二の次であり、家族が反対したからといってM&Aを除外すべきではありません。息子に継がせて、会社の業績が悪化し、息子も責任で潰れ、結果的に会社も潰れて、財産は喪失。変化の速い時代においては、こういったリスクこそ除外しなければならないのです。

 

三方よしは、必ずしも皆にその場で納得してもらう必要はありません。社長本人の先見の明と信念によって選択されたM&Aなら、納得はきっと後から付いてくるはずだからです。

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    本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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