(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年のM&Aのペースは、評価額が前年比25%減少するなど軟調でしたが、ディール活動は過去12カ月間で4%増加へ。世界のM&Aが減速傾向とされる一方、ディール活動が活発に展開されている状況が見て取れます。主要地域ごとの状況をについて解説します。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

M&Aのペースは減少も、ディール活動は4%の増加に

2022年のM&Aのペースは、評価額が前年比25%減少するなど軟化しました。しかし、DatasiteのDeal Drivers: 2023 Outlookレポートの調査結果によると、ディール活動のほうは過去12カ月間で4%増加しています。

 

地域別では、2022年のAPACにおけるディール件数は14%増、EMEAは9%増、アメリカは4%減となり、世界のM&Aが減速しているとの見方がある一方、活動はまだ行われている証拠があります。

 

2023年の地域およびセクターのM&A見通しは次の通りです。

アメリカ:成長ポテンシャルがある分野が明確化

アメリカにおけるM&Aの取引額は、2022年にコロナ禍前の水準に戻りました。取引量はコロナ禍以前の水準を上回る傾向にありましたが、市場の信頼が損なわれるにつれ、四半期ごとに明確な減退の傾向が見られます。

 

テクノロジー、メディア・エンターテイメント業界は、市場の混乱、オペレーションのデジタル化と自動化の進展、サイバーセキュリティに対する要求の高まり、メディア・ストリーミングへの大量移行などの追い風を受け、引き続き好調です。テクノロジー関連企業は2022年にかけて金利上昇により評価が崩れ、その結果、投資家にとって破壊的イノベーションを起こすテクノロジー関連企業を低コストで購入するチャンスとなりました。

 

また、好不調の波が激しい医薬品・医療機器・バイオテクノロジー(PMB)セクターも注目を集めています。昨年は503件の取引があり、そのうち149件は巨大な製薬会社とその関連企業群が多く存在するアメリカ北東部が最も活発な市場となるであろうと予想されました。

EMEA地域:活況継続の中東、原油価格上昇が追い風に

EMEA地域は、経済的な悪影響はあるものの、潜在的な案件が数多く存在する地域です。その中でも、テクノロジー、メディア・エンターテイメント、コンシューマー、工業・化学品(I&C)などが注目されている業界です。英国・アイルランドでは、DACH(ドイツ語圏)市場とともに、2023年に高いレベルのM&Aが行われると予想されます。また、成長鈍化と物価高の中でも業績を上げている東欧エリアの企業は、より慎重な買収者層から強い関心を集めると思われます。

 

2022年にかけての評価リセットは、今後12カ月間で、市場全体のM&A推進において最大の要因の1つとなるでしょう。公開市場は、2023年を特徴付けると予想される、きたるべき景気減速を先取りしています。しかし、非公開市場では本質的に公開市場と比較し遅れており、2023年の初めには評価がさらに低下することでしょう。

 

中東のM&A市場では2022年に活発化し、今後もこの傾向が続くと期待されています。この地域は原油価格の上昇の恩恵を受けており、資産エクスポージャーの多様化に熱心な国や政府関連組織に収益がもたらされました。このような長期的な目標を達成するために、国の関連機関はM&A市場に積極的に参加しています。

APAC地域:好調な販売量で新年を迎える

IMFは12月、11月時点で、4.4%としていた、中国の成長率見通しをさらに下方修正することが示唆されました。成長率が大きく低下していることが明らかになりました。中国のアジア地域の全取引の約4分の1、世界のGDPの5分の1を占め、これまで成長の妨げとなるゼロコロナ施策に取り組んでおり、これが取引の流れを止めることになりそうです。

 

しかし、中国をはじめとするAPACの多くの国々では、GDPの拡大が他の国々を上回っており、特にテクノロジー、メディア・エンターテイメント分野において、売却準備中の資産が安定的に供給されています。

 

また、過去12カ月が何らかの指標となるのであれば、2023年は驚くほど取引規模が小さくなることが予想されます。現在、デットファイナンスがより少なく、コストが高いため、バイヤーはより大きな取引を追求するインセンティブが低下している状況です。

 

これらの取引の一部は、プライベート・エクイティによって推進されるでしょう。プライベート・エクイティ・ファンドは依然として資金力を持っています。APACに特化したファンドの取引に向けた準備資金は、2022年に過去最高の6500億米ドル超に達し、この資金がシステムを通じて機能するまでには時間がかかることでしょう。イギリスの株式非公開の投資データ会社Preqinのデータによると、APACエリアは2012年から2019年に18.2%の純内部収益率を達成し、強力なパフォーマンスを示しています。このため、低資本の取引に注目が集まっていても、プライベート・エクイティは多忙を極めているはずです。

 

 

清水 洋一郎
Datasite 日本責任者

 

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