日本が抱える「根本的な問題」
足元のインフレを少し俯瞰した時、日本が抱える根本的な問題が観えてきます。一例を挙げると、意外に思われるかもしれませんが、世界的にみた日本の「インフレ率の相対的な低さ」です。
日本の12月の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、前年同月比)は、41年ぶりにプラス4.0%となるなど、私たちの家計に重くのしかかっているのは事実です。
しかし、日本は、エネルギーや食糧の自給率が極めて低く、かつ円安で輸入コストが上昇しているなかで、そのインフレ率が世界のあらゆる国のなかでも最低水準であることには違和感を覚えます。どこかに歪みが生じているのではないでしょうか。
この点について、経済学者の渡辺努氏は、著書「世界インフレの謎」(講談社現代新書)のなかで、この状況を「日本が世界各国から取り残されている異様な状態、デフレ慢性病にある」と述べています。
その理由として「日本は、輸入物価の上昇分を国内価格に転嫁できていない度合いが他国と比べて突出して高い」ことを挙げ、日本人の「値上げ嫌い」と、モノ・サービスを提供する企業の「価格据え置き慣行」といった心理が背景にあると分析しています。
日本は、渡辺氏の言葉を借りれば「価格と賃金が凍りついてしまった」異常な状況を長く続け、適度なインフレがもたらす経済のプラス循環を形成せずにきました。日本人は、自分たちが作ったさまざまな商品、サービス、さらには労働力も自らが安売りしているようにも映るのです。
その賃金に目をむけると、日本人の1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与(年)は、1997年の4,673千円をピークに四半世紀にわたって下がり続け、2021年には同4,433千円になっています。そのうち、非正規就業者の割合は全体の37%にも達しており、その平均賃金は、1,976千円と非常に厳しい状況です(国税庁「民間給与実態統計調査結果」、総務省「労働力調査」)。
その間、企業の経常利益額(法人企業統計全産業,除く金融・保険)は、3倍に伸びているにもかかわらず、です。