(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は、正規雇用の職を辞し、非正規やフリーランスとなって働き続ける人が多数派である。しかし、大企業で高位の役職に就いていた人などにとっては、このような小さな働き方はプライドが邪魔して前向きに受け止められないかもしれない。定年前後を境に会社での処遇に厳しさが増すなか、自身の経験が活かせる仕事を探すため、外部労働市場に打って出る人もいる。本記事では、長く勤めた会社を離れた後に多くの人が直面する労働市場の構造を明らかにする。

中高齢者における再就職先の間口は広がりつつある

もちろん、定年後の異なる会社への転職に、長く勤めた会社が大きな役割を果たす業種もある。特に、官公庁による就職先の斡旋(いわゆる天下り)や金融機関による関係会社への出向は広く知られており、こうした形で再就職先を見つける人も少なからず存在する。しかし、こうしたケースは全体から見れば少数であり、実際にはそれ以外の選択肢で転職先を見つけることが大半である。

 

前の会社から紹介を受けて転職をする人は、転職者のなかであくまでも一部の人であり、このような形を除けば職探しの手段はほかの年齢層とそこまで大きくは変わらない。

 

中高年者の転職に関しては、再雇用を分母から除けば、ほかの年齢層と比較してハローワークを通じて仕事を見つける人が比較的多い。そのほかも、求人情報誌やインターネットの求人情報サイトを見て新しい仕事に応募するといった「広告」による経路や、知人や友人に紹介してもらうというケースも多い。

 

定年前後の就業者の転職活動の大きな特徴としてあげられるのは、民間職業紹介所経由の転職が少ないということである。民間職業紹介所経由の転職は、50代後半で2.3%、60代前半で1.1%となっており、20代後半の8.0%や30代前半の8.1%などと比べて著しく少なくなっている。

 

中高年者の転職活動に民間職業紹介所が必要な役割を果たせていないのは、当然それがビジネスになりにくいからである。中高年者の転職は、先述のように受け入れ企業の姿勢や求職者の意識に課題があるケースが多く見受けられ、就職先の決定までに多くの時間を要する。また、決定しても30代や40代のような高額な報酬は望みにくく、どうしてもビジネス効率が悪くなってしまう。このため、結果としてマーケット自体がうまく機能しておらず、転職市場全体を通じた大きな課題となっている。

 

中高年の転職市場の活性化が大きな課題となっているが、ここ数年単位でみてもその状況が少しずつ変わりつつあることは見逃せない事実である。特に、中小企業や地方に拠点を抱える企業、人手不足が深刻な業界などを中心に、中高年の採用意欲が増しており、これまでにない良い待遇で転職できる人も増えているのである。

 

一部の企業では若手の採用が困難になっていることから、年齢にかかわらず活躍してくれる社員を採用したいという気運が急速に高まっている。名のある大企業への転職だけに絞ってしまうと依然として難しさがあるものの、優秀な人材であればその間口は確実に広がりつつある。

 

新卒市場で求職者からの人気が高い大企業などはこれからも中高年の積極的な採用は難しいと考えられるが、人手不足に悩む企業を中心として、将来的には中高年採用のすそ野はより広がっていくことが期待される。

 

 

坂本 貴志

リクルートワークス研究所

研究員・アナリスト

 

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う

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坂本 貴志

講談社

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