葬儀付帯サービス収入等を帳簿から除外・・・
事例2 葬儀業
今回は、徹底した仕入先反面調査と銀行調査により、リベート等を除外してそれを資金にした多額の個人的蓄財を把握し、不正の全貌を解明した事例を紹介する。
調査法人は地域で独占的に葬儀業を営む法人であり、資料情報からリベート収入の除外が想定されたため調査対象に選定した。
無予告で事務所に臨場し、帳簿を念査したところ、調査法人の収入には、資料情報で把握していたリベート収入の計上がなく、また葬儀場の外観調査の際に飾ってあった花輪の売上も計上されていなかったため、代表者に説明を求めたが、曖昧な回答を繰り返すのみであった。
そこで、直ちに仕入先である取引業者への反面調査を実施したところ、ほとんどの仕入先でリベートを支払っている事実を把握した。
また、調査法人の帳簿書類の保存状況が悪いことから、徹底した銀行調査を実施したところ、代表者の家族名義の預金口座に葬儀代や花輪の売上と思われる入金が複数あったため、入金金額が大きな入金元に反面調査を実施した。その結果、これらは葬儀代及び灯篭のレンタル代など葬儀に付帯するサービスの対価であることを把握した。
以上の事実を基に、再度、代表者を厳しく追及した結果、葬儀代の一部やリベート収入を除外し、捻出した資金を家族名義の預金及び株式として個人的に蓄財していた事実を認めた。(福岡国税局)
「重要資料」を所持する税務署…不正は必ず見破られる
葬儀業を統計(経済産業省のH17/H21実態調査)で見ると、経営組織は会社が80%強、従事者規模は5ないし9人が40%弱(次に多いのいは10ないし29人が30%程度)である。その雇用形態は、正社員が50%弱、パートとアルバイト等が25%程度、残る25%は臨時雇用者や役員である。
売上は、A:葬儀一式請負(構成比97.5%)と、B:その他の収入(2.5%)に分けられている。
Aは、
①「式典進行・設営・葬具」(棺、式場・祭壇設営、受付記帳用事務用品、遺影写真、司会・進行、式場案内など)収入42%
②「会場・室料」(式場・控室等)収入5%
③「飲食料」(通夜ぶるまい、精進落としなど)12%
④「生花」(葬儀に使用した花代)12%
⑤「返礼品」(返礼品の販売)17%
⑥「その他」(貸衣裳、テント、葬儀に関わる受取仲介手数料など)9%
に分けられる。
Bは、法事、法要等による収入である。
「葬儀一式請負」料金(霊柩運送、貸衣装、火葬料、寺院の費用、精進落としなどの費用を除く)ごとの件数の構成比を見ると、「100万円以上200万円未満」36%、「50万円以上100万円未満」31%、「50万円未満」23%の順である(H17統計)。(※1)
(※1)葬儀1件当たりの売上高(全国平均125万円)の高い地域は、第1位「富山県」(174万円)、第2位「山梨県」(172万円)、第3位「栃木県」(165万円)の順である(経済産業省のH17統計)。
本件調査法人は、この葬儀業務にかかわる仕入先のほとんどからリベートを受け取っていたにもかかわらず、それを売上に計上していなかったのである。
通常、リベートを求められる(支払う)仕入先の正しい会計処理方法には、2つある。一つ目は、販売促進費(販売奨励金または販売報奨金など)として、損金に算入する方法である。二つ目は、売上割戻しとして、総売上高の控除(差引)項目とする方法である。
リベートを受け取った側の法人は、例えば、仕入先が一つ目の方法によっているのであれば「(借方)当座預金/(貸方)リベート収入」と処理し、二つ目の方法であれば「(借方)当座預金/(貸方)仕入」と処理することになる。リベートを受け取った本件調査法人は、リベートを簿外預金(あるいは現金)で受け取り、「捻出した資金を家族名義の預金及び株式として個人的に蓄財していた」のである。
そうすると、本件事例のリベートを支払った側(仕入先)の処理は、一つ目の方法(販売促進費)であったと思われるので、反面調査ではこの点を押さえればよい。
本件事例では、「資料情報からリベート収入の除外が想定された」というが、この種の資料情報は、税法等の規程により提出が義務付けられている「法定調書(※2)」にはないので、その資料情報は仕入先の税務調査などの際に入手したリベート等資料(直接資料)であり、情報内容は精度の高い“いわば調査法人に対して劇薬となる”不正に直結した資料だったと思う。
(※2)法定調書とは、所得税法や相続税法などの規定により、税務署に提出が義務付けられている資料のことである。おおよそ60種類ある。代表的なものとして、給与の支払者が提出する「給与の源泉徴収票」がある。なお、市区町村に提出する「給与支払報告書」は地方税法により提出が義務付けられているもので、所得税法の法定調書とは別のものである。
税務署は、このように資料情報の内容等が重要だと認められる資料を「重要資料」と呼び、一枚いちまいを統括官等が慎重に管理し、これを活用するタイミングを図っている。これら法定調書等の作成や提出に要する費用(人件費等)は、給与の支払者等が負担し、国等からの補償は全くない。しかし、補償を求める意見がある。
重要資料等の情報を所持している税務署側は、事前に不正(リベート除外)の手口等を承知しているので、調査展開図は容易に描ける。
仕入先や銀行への「反面調査」によって発覚
本件事例の調査展開は、まず、①無予告で調査法人の事務所に臨場し、帳簿を念査し、リベート収入に関する真実の原始記録等の把握(提示を受けること)に努め、それらが把握できないのであれば次に、②仕入先や銀行に反面調査をするというものであった。
本件事例の結果は、①の段階で代表者が「曖昧な回答を繰り返すのみであった」また「帳簿書類の保存状況が悪い」ことから、計画どおり、②の反面調査に進んだのである。
税務署側は、仕入先や銀行への反面調査において、押さえるところは絞り込めているので、仮に本件調査法人が仕入先や銀行にある種の情報隠しなどを依頼していた(※3)としても、迷うこともないはずである。
(※3)調査対象者(個人や法人)は、税務署が取引先に反面調査に出向くと思われるとき、あらかじめ「口裏を合わせるよう」あるいは「帳簿書類等を見せないよう」依頼するケースがある。しかしそれは、隠ぺいする行為であり、重加算税(一種の行政制裁で通常本税の35%相当額)が賦課されるケースが多い。
ところで、本件調査法人にも税理士が関与していたはずであるが、「葬儀代の一部やリベート収入を除外し、捻出した資金を家族名義の預金及び株式として個人的に蓄財していた事実」に気付かなかったのであろうか。
日頃の巡回監査などの際には、ある程度問題意識を持って臨むべきだと思う。
<本事例のまとめ>
①把握していたリベート収入の計上漏れを、調査のねらいにしている。
②代表者の回答は曖昧なので、当初計画どおり、直ちに仕入先である取引業者への反面調査などを実施した。