今回は、交際費や借入金の名目で「架空経費」を計上していた事例を紹介します。※本連載は、税理士・小宮山隆氏の著書『税務調査の実例40』(法令出版)の中から一部を抜粋し、法人税・消費税調査の実例を納税者目線で解明・追及します。

売上が伸びているのに所得は低調…不可解な点が散見

事例⑤ サイト作成運営代行業

 

今回は、無申告法人に架空経費を請求させ,その支払金を元従業員名義や代表者名義の預金口座を経由し還流させる不正の全貌を解明した、サイト作成運営代行業の事例を紹介する。

 

調査法人は携帯電話情報サイトの作成・運営代行を業とする法人であり、売上が伸びているにもかかわらず、所得が低調であることなどから調査対象に選定した。

 

帳簿調査において、内容が不明な経費の支払いがあったため、代表者に説明を求めたが、明確な回答が得られなかった。そこで、反面調査を実施すべく支払先の申告状況を確認したところ、無申告法人であった。

 

無申告法人への支払いは架空経費ではないかと想定し、徹底した銀行調査を行った。その結果、無申告法人への支払は無申告法人名義の預金口座に振り込まれた直後、同額が現金出金され、調査法人の元従業員名義の預金口座を経由して、代表者名義の預金口座に入金されていたことを把握した。

 

また、併せて無申告法人の代表者への反面調査を実施したところ、当初は全く協力に応じない状況であったが、調査担当者の粘り強い説得により、調査法人と取引した事実は全くないとの供述を得た。

 

これらの事実を基に、代表者を厳しく追及した結果、無申告法人に架空の請求書を作成させて架空経費を計上していたことを認めた。代表者名義の預金口座に入金された資金は、一部を代表者借入金として調査法人に還流していたほか、簿外交際費として費消されていた。(熊本国税局)

不正経理に関わった「複数の企業の特定」が最重要項目に

調査担当者はまず、税務署内の書類を用いて調査を行う箇所の抽出をする。その際に用いる主な書類は、「申告書」「決算書」「事業概況説明書」とこれらを基にして作成された各種分析データである。このほかに、その法人の過去の調査歴や資料情報も用いる。

 

これらの各種データ等を3期ないしは5期分並べ比較分析し、調査のねらいを抽出する。例えば、その調査法人の実態を把握したところで、

 

①金額の変動の激しい勘定科目

②借入金等の勘定科目

③設備投資関連勘定科目

④預金や借入金など銀行関連勘定科目

⑤その業界特有の勘定科目

⑥資料情報に関連する勘定科目

 

というふうに、順次分析検討を行い調査ポイントを押さえるのである。

 

調査法人は、売上が伸びているにもかかわらず、所得が低調であるという。その原因が粉飾ではないとすれば、営業利益関連でいえば、売上原価(仕入高、労務費、外注費など)、販売費及び一般管理費(役員報酬、従業員給料、交際費など)のいずれかの勘定科目が同業種法人と比較して異なる動きを示しているであろう。

 

そのことが調査ポイントにほかならない。もちろん資産負債勘定のうちこれに関連する勘定科目も調査ポイントである。

 

本件事例は、「帳簿調査において、内容が不明な経費の支払いがあったため、代表者に説明を求めたが、明確な回答が得られなかった」とするが、このことは、調査のポイントを抽出した段階で既に想定済みのことであったことを意味する。

 

つまり、本件事例の場合、当初から反面調査を行う先(銀行と支払先<無申告法人>の2か所)の特定に重点を置いた帳簿調査を行い、しかも反面調査に相当の調査日数を投下する計画だったのである。

 

したがって、調査展開としては、まず、臨場調査で営業利益を少なくするためにいずれの費目を利用して不正経理を行っているかを見分けること、次に、反面調査(取引先調査、銀行調査など)で不正経理の金額を確定すること、という計画であったと思われる。

 

そこで計画どおり、「内容が不明な経費の支払い」の支払先(調査結果は無申告法人であった)とその支払に利用された銀行の調査に移行したのである。

 

本件事例の銀行調査において、無申告法人への支払は、

 

①「無申告法人名義の預金口座に振り込まれ」

②その直後「同額が現金出金され」

③「調査法人の元従業員名義の預金口座を経由」して

④「代表者名義の預金口座に入金されていた」ことが明らかになった。

 

①ないし④の預金口座が1か所の銀行であれば解明は容易だろうが、不正経理をする多くの社(者)は複数の銀行を利用する傾向にある。これに伴い調査をする側は多大な日数を要するが、反面調査を受ける銀行側も長期間に亘り対応しなければならない。

 

調査法人の多くが、銀行に対し「何を見せたのか」といった問い合わせをするようだが、それは調査法人に対する銀行の印象を益々悪くする。

 

本件事例の取引先(無申告法人)調査において、「調査法人と取引した事実は全くないとの供述」を得ている。この供述については、「聴取書」という書面を作成するケースが多い。「聴取書」は、不正経理を明らかにする証拠である(新税務調査手続きでは「質問応答記録書」が作成される)。

 

本件事例でいえば、

 

①「調査法人と取引した事実は全くない」こと

②「架空の請求書を作成」させられたこと

③「その作成に伴いその対価を受領した」こと

④「無申告法人名義の預金通帳は所持していない」こと

 

などが盛り込まれているはずである。

 

この「聴取書」は、代表者本人に対する「聴取書」と共に、重加算税の賦課処分の証拠にもなる。

 

調査法人は架空経費を計上し、一部を代表者借入金として調査法人に還流していたほか、簿外交際費として費消していたから、損益計算書面では架空経費の減額(所得加算)し、合わせて簿外交際費の加算なし(役員報酬として損金不算入、源泉所得税告知処分)、貸借対照表面では加算なし(代表者借入金は減額)であろう。

 

また、無申告法人に支払った対価は脱税のための費用であるから損金算入できない。

 

したがって、法人税申告書(修正申告書等)では、「架空経費」減算(架空経費計上として課税所得金額の増加)、簿外交際費を役員報酬に加算するものの、それは過大役員報酬に該当し、丸まる損金不算入(交際費計上漏れとして一部損金算入に該当しない)となる。

 

無申告法人に支払った脱税費用は損金に算入されないという処理(架空経費がそのまま課税所得金額の増額になる)になるだろう。これに加えて、役員報酬に係る源泉所得税の告知処分(もちろん不納付加算税が加わる)が行われる。

 

本件事例では、関与税理士の知らないところで架空経費がねつ造されていたとしても、月次決算などの際に指摘できなかったことに歯がゆさを感じるに違いない。

 

<本事例のまとめ>

 

①売上増加・所得低調の原因解明を、調査のねらいにしている。

 

②架空経費計上を想定の上、その反面調査(取引先調査、銀行調査など)に相当の調査日数を投下する計画をしていた。

税務調査の実例40

税務調査の実例40

小宮山 隆

法令出版

日々淡々と行われている税務調査…本書では、所得隠し(脱税)の手口の実例を、誠実な納税者目線で余すところなく解明・追及します。税務職員が学ぶ顕著な事績がこの1冊に詰まっています!

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