架空の材料仕入高の計上で、消費税額を圧縮!
事例⑧ 自動車部品等製造業
今回は、準備調査で抽出した不審点を基に消費税計算書を検討し、材料仕入高の水増しによる多額の消費税不正計算を把握した事例を紹介する。
調査法人は、自動車部品等の製造を行う法人である。消費税の申告内容を検討したところ、決算書から推計した控除対象仕入税額と申告額に多額の開差が認められたため、架空の課税仕入計上を想定して調査着手した。
調査法人に臨場し、経理担当者から消費税申告書の作成の流れまでを聴取するとともに、消費税申告書の作成の基となる消費税計算書を検討したところ、材料仕入高について決算書より過大に計上されている事実を把握したが、経理担当者は「消費税計算書作成における単純な入力誤りである」との曖昧な説明を繰り返した。
そこで総勘定元帳について確認したところ、材料仕入高が計上されていないにも関わらず、「仮払消費税/普通預金」の仕訳が散見されたため、当該仮払消費税の額を合計したところ、消費税計算書において過大に計上された材料仕入高に係る消費税額と一致した。
更に、経理担当者のパソコン内に保存されていた消費税計算書のファイルを確認したところ、他の勘定科目の集計欄は演算式で集計されているにもかかわらず、材料仕入高の集計欄は演算式を用いず、水増し後の合計額を直接入力している事実が把握され、意図的な架空仮払消費税の計上が想定された。
以上の事実を基に代表者及び経理担当者を厳しく追及したところ、「仮払消費税/普通預金」の仕訳により不正資金の捻出を行うとともに、消費税計算書にのみ架空の材料仕入高を計上することにより、消費税額を圧縮した消費税申告書を作成した事実を認めた。(広島国税局)
消費税の架空課税仕入を計上して簿外現金を捻出
国税庁は「消費税は、主要な税目の一つであり、預り金的性格を有するため、国民の関心が極めて高く、一層の適正な執行が求められています」という考え方の基で、
「特に、消費税について虚偽の申告により不正に還付金を得ようとするケースも見受けられるため、還付の原因となる事実関係について十分な審査を行うとともに、還付原因が不明な場合には、調査等により接触し、不正還付防止に努めています」(「国税庁レポート」2014年度版、p27)
と述べるように、全国の税務署に対し「十分な審査と調査等により、消費税の不正還付申告を防止」するよう指示している。
また、同「国税庁レポート」では、悪質な消費税不正還付事例として、
①帳簿等を改ざんし国内売上を輸出免税売上に仮装する手口で不正に消費税の還付を受けていた
②事業者が支払う人件費は課税取引とならないが関係会社(人材派遣会社など)からの派遣であると偽ることにより課税取引である外注費に仮装して不正に消費税の還付を受けていた
③帳簿等を改ざんし賃貸借処理をすべきリース契約について売買処理を行うことによりリース資産を自社の固定資産として計上し不正に消費税の還付を受けていた
という事例を挙げている。
本件調査事例は、これらとは違う不正手口の事例だが、消費税の架空課税仕入を計上することにより簿外現金を捻出していた事例である。
このような消費税の不正還付を未然に防止する措置として、消費税の還付申告書に「消費税の還付申告に関する明細書」を法人も個人も添付して提出することとされている。
この明細書(法人用)には、
①還付申告となった主な理由
②課税売上等に係る事項(⑴主な課税資産の譲渡等、⑵主な輸出取引等の明細)
③課税仕入れに係る事項(⑴仕入金額等の明細、⑵主な棚卸資産・原材料等の取得、⑶主な固定資産等の取得)
④当課税期間中の特殊事情
を記載する。
このうち、3の⑵原材料等の取得の記載事項をさらに詳しく見ると、「資産の種類等」「取得年月日等」「取引金額等(税込、税抜)」「取引先の氏名(名称)」「取引先の住所(所在地)」を記載することとされている。
調査法人は、これらの記載について、③の⑴「課税仕入高」と、③の⑵「取引金額」には虚偽(過大)記載をし、それ以外はあるがままを記載したものと思われる。
つまり、調査法人は、法人税申告書に添付した損益計算書(特に材料仕入高)等と、消費税申告書の記載内容(特に課税仕入)との関連性を無視し、消費税申告書作成の基礎資料である消費税計算書の材料仕入高を過大に計上していたのである。これが調査のねらいでもある。
消費税の会計処理は、
①税込処理(消費税額を売上高や仕入高に含めて処理する方法)
②税抜処理(消費税額を売上高や仕入高に含めないで区分して処理する方法)
とがあり、さらに、②については、②A:取引の都度区分する方法と、②B:期末に一括処理する方法とがある。
調査法人は②Aの会計処理を採用していたと思われる。その正しい仕訳は「(借方)材料仕入50円・仮払消費税4円/(貸方)買掛金54円」である。調査法人は経理担当者に実際の仕入高についてはそのような正しい仕訳をさせつつ、そのほかに「(借方)仮払消費税4円/(貸方)普通預金4円」という架空の仮払消費税の仕訳をさせていたのである。
すなわち、架空材料仕入については、架空の仕訳「(借方)材料仕入50円」を切らずに、それに伴う架空仮払消費税の仕訳だけを切らせたのである。
会社側が関与税理士を欺いているケースも…
この指示は、損益計算書や貸借対照表などの勘定科目「材料」に、架空の材料仕入高50円が盛り込まれてしまうと、自動車部品等の製造コストに影響が出る(真実の製造コスト計算を別に行わなければならなくなる)から、材料仕入高に関する操作を避けた(仕訳をしなかった)のである。
しかし、架空の仮払消費税の仕訳の貸方の勘定科目は「普通預金」であるため、普通預金から架空の仮払消費税4円を引き出さないと現実の普通預金残高が帳簿上の普通預金残高を上回ることになってしまう。
そこで、調査法人は、架空の仮払消費税に相当する4円を普通預金から引き出し、これを簿外現金としたのである。
この簿外現金の使途がどのようなものであったかは不明であるが、一般に、代表者の遊興費、取引先等の交際費、取引先へのリベートなどに当てるケースが多い。調査法人には経理担当者がおり、その経理担当者が記帳から決算までを行い、また申告書も作成しているものの、申告書等のチェックは関与税理士が行う形態のように思われる。
このような場合、会社側が関与税理士を欺いているケースがまま見受けられる。そこで、税理士の使命に反することに加えて、不正に加担したことになることを避けるためにも、厳格な監査等が望まれていると思う。
<本事例のまとめ>
①法人税申告書と消費税申告書などの検討から、消費税の架空課税仕入計上を、調査のねらいにしている。
②消費税の会計処理を操作し、捻出した不正資金が簿外現金になっていることも想定していた。