寿命が延びたからこそ考えたいQOL(生活の質)
誰もが健康で天寿を全うしたいと願っています。実際に、年齢を問わず「あなたは長生きしたいですか」と尋ねると、多くの人が「健康であれば」と答えます。年齢が高くなるほど、この傾向は強くなっています。おそらく加齢に伴い何らかの不調を感じるようになるために、「健康の重要性」を実感しているからではないでしょうか。
確かに患者さんを見ていても、慢性の腰痛や膝痛を抱えている人は、痛みのせいで歩くのがつらいので遠出を控えるようになります。慢性の内臓疾患を抱えている人は、塩分や糖分を制限されたり、カロリーオーバーにならないように食べる量を減らすなどして好きなものを自由に食べられず、食事の楽しみが半減したと嘆いています。
このように、病気を抱えた状態では人生を謳歌できないと感じているようです。介護が必要な状態になれば、なおさら行動が制限されてQOL(生活の質)が低下する上、家族にも迷惑をかけるので長生きしたくないともいいます。
こうした皆さんの不安は、世界も認める長寿国である日本では切実な問題といえます。厚生労働省の調査(2013年)によると、日本人の「平均寿命」は男性が80.21歳、女性が86.61歳でいずれも過去最高を更新し、男性は初めて80歳を超えたことがわかりました。国際的にみても、女性は2年連続世界一、男性は前年の5位から4位に上昇しました。
したがって、皆さんも80歳を迎えられる可能性が高いというわけです。人生50年といわれた時代からすれば、30年も寿命が延びたことは喜ばしいことです。
健康寿命は男性71.19歳、女性74.21歳
しかし一方では、喜んでばかりいられない現実があるのも事実です。
皆さんは「健康寿命」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、健康上の問題がなく日常生活を自立して送れる状態を指すもので、男性は71.19歳、女性は74.21歳であることが、厚労省の調査(2013年の統計)で明らかにされています。
つまり、皆さんが心配しているように、亡くなるまでの約10年間は健康でいられず、何らかの病気を抱えて介護など人の助けを借りながら生きるようになる可能性が極めて高いことを意味しているのです。
そうなれば当然、多くの人が理想としている、亡くなる直前まで健康に過ごし、最期は眠るようにコロリと逝く「ピンピンコロリ」の人生とは程遠いものになってしまいます。