「直感力」に長けていたアインシュタイン
相対性理論でおなじみの物理学者、アルベルト・アインシュタイン(1879〜1955)。僕が思うに、彼は非常にセオリー・オブ・マインドに優れていました。それを示す、こんな逸話があります。
「宿題を手伝ってほしいのです」…少女のお願いに応えたワケ
彼が一般相対性理論などを発表し、プリンストンで研究していたころ、アインシュタインの家の近所に小学生の女の子が住んでいました。この女の子は算数が苦手で、いつも先生に「どうして君は算数が苦手なのかな。君の家の近所には算数が得意なすごい人が住んでいるというのに……」と言われていました。
女の子はあるとき、それならその人に算数の宿題を教えてもらおうと思い立って、アインシュタインの家へ向かったのです。家のチャイムを鳴らし、アインシュタインが「どうしたのかな?」と尋ねると、女の子は「学校の先生がおじさんは算数が得意だと言っていたから私の宿題を手伝ってほしいのです」とお願いしたのです。
アインシュタインは困惑したものの、「どうぞ、お入りなさい」と女の子を家に招き入れ、算数の宿題を手伝ってあげました。
しばらくして、女の子が算数ができるようになってきたので、先生は不思議に思いました。「算数の成績が上がってきたようだね。何かいい勉強法でも見つけたのかな?」と尋ねると、女の子は「先生が言っていた近所のおじさんに教えてもらっているんです」と答えました。 驚いたのは先生です。「これは困ったことになった……」とアインシュタインの家に謝罪に行ったのです。
ところがアインシュタインには、「いいえ、謝る必要などありません。私はちょっとだけ算数を教えただけですが、反対に私のほうが女の子からいろいろなことを教えてもらいました」と逆に感謝されたというのです。
打算ゼロで「セオリー・オブ・マインド」に従う
このエピソードはアインシュタインの人間性やユニークさを表すものとして後世に語り継がれています。しかし、アインシュタインはそんな小さな女の子の依頼を断ることもできたはずです。
ここで重要なのは、引き受けたから逸話として残ったけれど、断ったからといって「悪いエピソード」として語り継がれる可能性はゼロに等しかったということです。すでに名声を得ている天才数学者が小さな子どもの無料家庭教師を断る、そんなのは当たり前で、それだけで「あいつはひどいやつだ」と言う人はいません。
だけどアインシュタインは、多分その子の純粋さ、懸命さを見て「あ、これは教えてあげようかな」と思ったんだと思います。
そのとき、「この子に算数を教えたら評判になる」というような打算は一切なかったでしょう。でも、結果的には自分のセオリー・オブ・マインド、「相手を見てピンとくる」能力に従ったことが、後世に残るよい評判につながりました。
眠れるアニマルスピリッツを目覚めさせ、セオリー・オブ・マインドを発揮する。文字で書くとなんのことやら……かもしれませんが、これからの時代を生き抜くため、ぜひとも意識してほしい能力です。
茂木 健一郎
理学博士/脳科学者
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