(※画像はイメージです/PIXTA)

2022年12月16日に発表された与党の「2023年度税制改正大綱」において、いわゆる「コインランドリー節税」に網がかけられることになりました。しかし、その根拠となってきた「中小企業経営強化税制」の制度趣旨からすると、単なる「節税憎し」の一念からの勇み足ではないかという疑念が湧きます。本記事で検証します。

「2023年度税制改正大綱」でコインランドリー投資が終焉!?

ところが、2022年12月16日に与党が公表した「2023年度税制改正大綱」によって、2023年4月以降、「コインランドリー節税」が事実上認められなくなる見通しとなりました。

 

すなわち、「コインランドリー設備」について、「機械装置の管理の大部分を外部に委託している場合」については、2023年4月以降、中小企業経営強化税制(B類型)の対象から除外するという方針が示されたのです。

 

これを反対解釈すると、2023年4月以降は、企業・個人事業主が実務を外部に委託せず内製化する場合のみ、B類型の即時償却が認められることになります。

 

なお、コインランドリーとともに「暗号資産(仮想通貨)のマイニング設備」も、同様に中小企業経営強化税制(B類型)の対象から除外されるとしています。

 

「コインランドリー投資」と「マイニングマシン投資」に共通するのは、「手離れのよさ」つまり、実際の業務は人任せにして、収益だけを得るということです。そういう場合は即時償却を認めない、というのです。

 

背後にある考え方は、「即時償却を認めてほしければ、実際の運営実務も自前でやれ」ということです。乱暴な表現をすれば、「手を煩わせず、美味しいところだけ『ありがとうさようなら』とばかりに持っていくのはズルい」ということです。これはいかにも俗耳に入りやすく、一見、あたかも正当な考え方であるかにも思えます。

コインランドリーを即時償却の対象から外すことの問題点

しかし、この考え方には以下の問題点があり、租税法律主義、租税の公平性の観点から、疑問があるといわざるをえません。

 

1. コインランドリー投資にも事業リスクがある

2. 「外部委託」と「内製化」を区別する合理性に疑問がある

 

◆問題点1|コインランドリー投資にも事業リスクがある

第一に、コインランドリー投資を新規事業として行う場合、他の事業と同様、事業リスクを負います。

 

コインランドリー投資は決して「何もせずに収益だけ得る」というものではありません。いかに市場の将来性が期待できるとはいえ、コインランドリー経営にも事業リスクがあり、先述のYouTube動画のように損をするケースも散見されます。

 

しかも、コインランドリーは「株式投資」などと異なり「損切り」も容易にはできません。事業が失敗した場合のリスクはもろに自身で被らざるを得ないのです。

 

そもそも中小企業経営強化税制(B類型)の趣旨は、既存事業と異なる新規事業を行うリスクに配慮してのことだったはずです。そうであるならば、いかにみずからランドリー運営の実務を担当しないからといって、制度の対象から外してよいものか、制度趣旨に即しない「他事考慮」あるいは「要考慮事項不考慮」ではないかという疑問が生じます。

 

◆問題点2|「外部委託」と「内製化」を区別する合理性に疑問がある

第二に、外部委託することと、自前で経営することを画然と区別することの合理性に疑問があります。

 

両者はそれほど明確なものではありません。たしかに、業者に外部委託する場合のほうがコストは低いかもしれません。しかし、業務を担当してもらうための対価はきちんと支払っています。むしろ、新規事業を行う場合にノウハウを熟知した専門業者を利用するのは、合理的な経営判断ということができます。

 

このことからすれば、外部委託と、内部の従業員に業務を担当させ給与を支払うこととの差は、それほど顕著なものとはいえないということになります。

 

特に、既存の事業の先行きに限界を感じ、それと並行して新規事業を行う場合は、外部の専門業者を利用してでも新たな収益源を得ようとすることは、正当な経営判断といえます。

 

しかも、内製化の場合のみを優遇するということになれば、それをするための人的・物的資源に余裕がある事業者だけが優遇されることになりかねません。これは課税の公平の理念に反するものです。

「節税憎し」の一念あまって法の趣旨を没却?

以上からすると、与党の2023年税制改正大綱におけるコインランドリー投資に関する考え方は、「節税はけしからん!」という域を出ておらず、それ以上の意義は見出しがたいといえます。

 

たしかに、もっぱら「決算対策」「節税対策」を主な目的としてコインランドリー投資を行う法人・個人がいるのは厳然たる事実です。しかし、上述のように、即時償却は決して「節税」ではありません。しかも、仮に「決算対策」「節税」の意図があったとしても、「既存の事業と異なる収益源を得るため、新規事業を自身のリスクで行う」という側面を完全に否定し去ることはできません。

 

本件に限らず、昨今の政府・与党の税制に関する動きをみると、「租税法律主義」や「課税の公平」といった税制の基本理念を蔑ろにし、「取れるところから取る」「けしからんから特典を与えない」などの安易な考え方から、なりふり構わず課税強化に邁進しているのではないかという疑念を禁じ得ません。

 

政府・与党、国会には、いま一度、税制の根本原理に立ち返り、それを徹底した制度設計を行うことが求められています。同時に、私たち国民も、政府と国会の恣意を許さないよう、監視していくことが必要です。

 

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