(写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナによるパンデミック、ウクライナ戦争、米中対立の激化などにより、世界経済の「急減速」が続いています。しかし、そのようななかで2023年の日本経済は先進国のなかでもっとも「底堅い」1年になるだろうと、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は予測します。その理由と、2023年の世界経済見通しについて、武者氏が解説します。

長期金利抑制=「潜在的デフレリスク」

6%のコアCPIの下で3%台に長期金利が抑制されているということは、潜在的な貯蓄余剰=デフレリスクの存在、を示唆する。このことにより、いつでも金融緩和という手段を使える。イエレン財務長官が主張する高圧経済状態を維持するという戦略が生かされるのではないか。

 

比較的タイトな労働需給が続き労働者の強いバーゲニングパワーが維持されることで、企業には労働生産性向上のインセンティブが与えられ、それはサプライサイドも強化する。その場合インフレ率3%へとターゲットをシフトさせる可能性もあり、FRBの市場フレンドリーという傾向は変わることはないだろう。

 

となると2022~2023年はリセッションの年ではなく、長期経済拡大のなかで3~4年ごとに訪れた2013年、2016年のような、ミニディップの年になるかもしれない。利上げ一巡、利下げが視野に入る2023年中には米国株式は騰勢に転ずる可能性が高い。

 

[図表13]米国企業のフリーキャッシュフロー推移
[図表13]米国企業のフリーキャッシュフロー推移

 

[図表14]米国散髪料金のインフレ率推移(WSJ)
[図表14]米国散髪料金のインフレ率推移(WSJ)

 

[図表15]米国単位労働コスト推移
[図表15]米国単位労働コスト推移

 

[図表16]米国労働分配率と景気推移
[図表16]米国労働分配率と景気推移

 

米国経済の司令塔たちが抱く「経済思想」の推測

筆者は米当局はオーバーキル回避に軸足をシフトしていくと考える。なぜなら現在の米国の最大のリスクがいいインフレを殺すことであり、高圧経済論者イエレン氏をはじめ、米国のリーダーはそれを強く意識している、と思われるからである。

 

米国の根本リスクは企業の好調な利潤が経済成長につながらず、金融市場で滞留して低金利を引き起こしていること。この低金利は短期的にはいいことだが、それが行き過ぎるとデフレ、大不況を引き起こす。

 

それを回避するためには、健全な賃上げ、労働分配率引き上げにより企業の過剰利益を抑制し、他方で賃金上昇により消費が喚起されることが必要である。

 

このところの米国長期金利の低下によって、コロナ後のインフレと金融引き締めにもかかわらず、米国および先進国経済の以下の基本矛盾、

 

R1(利潤率)>G(成長率)>R2(利子率)

 

という不等式が変わっていないことがほぼ明らかになった。この基本認識が、「インフレはいいことだ」との認識をもたらしている、と考える。パウエル議長がインフレを一時的(transitory)と評して看過し続けたのは、そうした基礎認識があったからであり、大枠として間違っていない、と考える。

 

[図表17]米国経済の基本矛盾と解決策
[図表17]米国経済の基本矛盾と解決策

 

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※本記事は、武者リサーチが2022年12月19日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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