(※写真はイメージです/PIXTA)

老後生活費の不安を解消するには、まず50代のうちに老後のお金の「見える化」しておくことが大切です。そこで課題が判明しても、対策を打つことができ、「知っていれば〇〇しなかったのに…」という後悔も避けられるはずです。大江英樹氏・大江加代氏の共著『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版)から一部を抜粋し、妻・加代氏によるアドバイス「共働きの妻が知っておくべき年金の繰り下げ受給の注意点」を紹介します。

知っておきたい4つのポイント

<ポイント①加給年金が受け取れなくなる可能性がある>

まず一つ目はデメリットともいえますが、厚生年金を繰り下げすると加給年金が受け取れなくなります。

 

加給年金というのは、年金版家族手当のようなもので、厚生年金保険に20年以上加入した人が65歳になって厚生年金をもらい始めた段階で生計を維持されている65歳未満の配偶者がいれば、加算されるというものです。配偶者の場合、年額約39万円です。

 

「生計を維持されている」とは、原則として次の要件をいずれも満たす場合をいいます。

 

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(1)生計を同じくしていること(同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められる)

 

(2)収入要件を満たしていること(前年の収入が850万円未満、または所得が655万5千円未満)

 

※配偶者自身が厚生年金保険に20年以上加入した特別支給の老齢厚生年金を受けられるときなどは、加給年金額は加算されません。

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厚生年金を繰り下げて受け取らないということは、その間、加給年金ももらえないということになります。

 

わが夫婦の場合は年の差15年なので、加給年金を、夫が厚生年金を70歳まで繰り下げることによって5年間もらえなくても、私が65歳になるまでの10年はもらえます。メリット・デメリットを総合的に考えると、「繰り下げてもよいだろう」ということになりました。

 

<ポイント②遺族厚生年金は繰り下げしても増えない>

二つ目は遺族厚生年金についてです。これは「知らなかった」と後悔しないためにも、ぜひ押さえておきたいポイントです。

 

遺族厚生年金は「夫の厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」です。夫の厚生年金を繰り下げして額を大きくしたら遺族厚生年金も増える、と思うかもしれませんが違うのです。

 

遺族厚生年金の計算の際に使う夫の厚生年金の報酬比例部分は、繰り下げして増えた額ではなく、65歳から受け取り開始する際の額なのです。

 

つまり、繰り下げによって受け取り額が増えるメリットがあるのは夫が生きている間だけで、妻が遺族になったら減る(通常路線に戻る)のです。これを知って私は相当がっかりしました。

 

結局、妻である私がおひとりさまになったときの対策としての年金額を増やすためには、「私自身の年金を繰り下げないと意味がない」ということです。

 

さらに共働きのご夫婦のためにもう少し丁寧に解説すれば、一人になった時に夫の遺族厚生年金としてもらう年金は、自分の厚生年金とは別に上乗せしてもらえるわけではなく、自分の厚生年金と遺族厚生年金のいずれか多いほうの額を受け取れるということになります。

 

共働き夫婦は、二人で暮らしているうちは年金受給においてもダブルインカムで最強ですが、一人になった時、生活費は半分にならないのに年金収入がほぼ一人分になります。ちょっと厳しい現実ですが、そこを見据えておくことが安心につながるでしょう。

 

一般的に、繰り下げして増える額の多い夫の厚生年金額を繰り下げるほうが得と考えがちですが、加給年金のことや遺族厚生年金の現実を考えると、妻が年下の場合、夫の厚生年金は65歳からさっさともらい始めて、夫の基礎年金、妻の基礎年金は極力繰り下げる、そして妻の厚生年金の繰り下げは自分の厚生年金額と夫の厚生年金の4分の3の額を見比べて判断する、というのが一つの方法かと思います。

 

わが家は、仕事上もまだ少なかった「繰り下げ」を自ら実践・体験したいということもあって、加給年金は捨てて70歳まで夫の年金は基礎年金・厚生年金ともに繰り下げました。現在は75歳までの繰り下げも可能ですが、夫の生年月日ではそれは適わず、受け取りを始めています。

 

<ポイント③税と社会保険料の自己負担額に影響する>

三つめのポイントは、年金額が増えると所得税・住民税・医療介護に関する社会保険料や医療介護の自己負担額に影響することです。

 

社会保険料に関して、「65歳で勤めを辞めて年収が下がったのに、負担が増えて驚いた」という話をよく耳にします。これは年金額が増えたというよりも、お勤めしていた間は会社と折半で負担していた社会保険料を全額自己負担することが主因です。

 

こうした退社後の社会保険料だけでなく、繰り下げによって年金額が増えたとき、税金や社会保険料にどういった影響がありそうか、どの程度の負担になるのか、お住いの市町村のホームページや相談窓口を活用して確認しておいたほうがよいでしょう。

 

ちなみに、医療費の負担率が下がる70歳になっても、現役並み所得者として3割負担する目安は、世帯内に課税所得145万円以上の人がいるかどうか、介護保険の3割負担は65歳以上の単身世帯で年間収入340万円、二人以上世帯で463万円というのが一つの目安になります。

 

<ポイント④自由度が高い「融通が利く」制度である>

最後に、繰り下げは意外に自由度があるのも知っておいていただきたいことです。

 

「繰り下げ」は、65歳の時に受け取り開始手続きをしなければ自動的に繰り下げになり、事前に「何歳まで繰り下げる」といった申告も不要です。

 

また、受け取るときは二つの方法から選択することができます。

 

例えば、70歳まで繰り下げして年金給付額を手厚くしようと思っていた方が、68歳で大きな病気をしてお金が必要になったのであれば、その時点で年金事務所に行って受取申請をし、68歳から受け取ることができます。

 

その場合、⑴増額された年金額をそこからもらうという方法と⑵65歳以降68歳までに支払われるはずだった年金額をまとめて受け取り、以降は増額なしの年金額を受け取るという方法を選択することもできます。

 

「繰り下げ」の話をすると、「繰り下げしている間に亡くなったら損だよね」とか「もらい始めた直後にあの世へ行ったら増額しても意味ないですよね」と話す方がいますが、死んでしまっているのですから損も得もありません。後悔するのはあの世での話です。

 

一人であればあまり気にする話ではなく、二人であれば残される側が後悔しない選択になっていることが大事だと思います。

 

「繰り下げ」に可能な範囲でチャレンジする算段をして、「難しそうであれば通常どおり受け取る」という気楽な姿勢で臨むのがよいのではないでしょうか。

 

 

大江 加代

確定拠出年金アナリスト

 

※本連載は、大江英樹氏と大江加代氏による共著『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル

お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル

大江 英樹
大江 加代

日本実業出版社

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