(※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦そろってお金のプロである大江夫妻。夫・英樹氏は、定年時の預貯金はわずか150万円でしたが、事前に老後のお金を「見える化」していたために、老後生活費の心配はまったくなかったと言います。一方、妻・加代氏は夫が言うほど大丈夫とは思えず、老後の家計をシミュレーションしてみたところ…。大江英樹氏・大江加代氏による共著『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版)より、第3章の一部を抜粋します。

「老後の収入」は条件によって大きく変わる

夫は定年以降のお金に関して「心配ない」と当時も言っていましたし、著書にもそう書いていますが、私自身は正直不安がありました。

 

自分に一定の定期収入があり、その範囲で暮らすことしかやってこなかっただけに、夫の収入、それも年金で暮らすということにリアリティがなかったからです。

 

そこで、徹底的に数字、つまり金額に落とし込んで、私が90歳まで生活していけるのかを「見える化」してみました。

 

老後のお金の収入の柱は公的年金ですが、条件によって受取額が変わります。

 

例えば、共働き夫婦の場合、二人とも生きていれば、それぞれ老齢基礎年金と老齢厚生年金がもらえるため、年金もダブルインカムとなります。

 

しかし、片方が亡くなれば老齢基礎年金は一人分になりますし、老齢厚生年金ももちろん支払われません。厚生年金部分はその4分の3が遺族厚生年金に衣替えしてパートナーに支払われるのですが、私の厚生年金額を上回った部分しか受け取れません。

 

つまり、夫が死ぬと遺族である私の生活収入が激減するわけです。

 

また、加給年金という公的年金版の家族手当は、夫が厚生年金を受け取り始めると年間39万円くらい支給されるのですが、これも私が65歳になると受け取れなくなるのです。

 

勤め先の企業年金や退職金も条件がいろいろ異なります。

 

例えば退職事由が、定年か自己都合退職かによって金額が異なるというのはよくある話だと思いますが、企業年金では、一時金と年金を一定の割合で組み合わせて受け取れたり、年金で分割して受け取る年数を選べたりと、いろいろな選択肢があります。

 

夫の勤めていた会社の企業年金には年金で受け取る際に保証期間というものがありました。一時金と違って年金で受け取る場合は公的年金同様に本人が亡くなった時点で年金支払いがストップされるのが普通ですが、受け取り開始してまもなく亡くなったとしても、この保証期間の間は遺族に年金額の支払いが継続されるというものです。

 

ここでも“夫が何歳で亡くなるか”ということが遺族となる私の生活収入に影響することがわかりました。

 

そう考えると、老後の収入を前もって正確に計算することは事実上、不可能なのです。

「90歳までの収入」を複数のパターンで試算&試算

支出は家計簿をつけていたので夫婦で毎月約22万円、一人になっても半分にはなりませんから月約17万円、年間200万円くらいは確保したいと考えていました。

 

そこで、夫と私のそれぞれの企業年金の一時金と年金の選択割合、そして夫が亡くなる年齢が遺族である私の生活収入に大きな影響を与えるため、それらを組み合わせて7パターンくらいで老後の収支の予測を試算してみました。

 

ところが具体的に金額に落とし込む作業をしてみて、「自分の場合、この条件にあてはまると考えて大丈夫?」という疑問がいくつも湧いてきた記憶があります。

 

そしてそのつど、公的年金の問い合わせ窓口である年金事務所や企業年金の問い合わせの窓口である担当部署にお世話になりました。

 

何度も細かい質問で問い合わせるのは悪いような気がして躊躇することもありましたが、少しでも疑問があると試算結果に対して確信が持てず、心配や不安を消すことはできません。最終的には「こうした問い合わせに答えるのも彼らの仕事」と割り切り、何度も電話して確認するに至りました。

「見える化」で「夫亡き後の不安」がスッキリ解消

試算した結果から、夫の企業年金について年金で受け取る割合を大きくすれば、夫が言うとおり、定年以降まったく収入を得られなかったとしても、夫の公私の年金収入で当面は家計を賄っていけることが確認できました。

 

しかし、私が本当に心配していたのは、夫が亡くなって私が一人になった時のことです。前述のとおり、公的年金も企業年金も夫の死亡と同時に消滅または大きく減額になるからです。

 

夫と年の差のある私は、一人になってからも暮らせるのか、そこが最も心配でした。

 

試算すると、夫の遺族厚生年金と私の基礎年金だけでは目標とした生活費をクリアすることはできませんでしたが、私の企業年金を一時金では一切受け取らず、すべて年金にまわすと生活費が賄えそうなことがわかりました。医療や介護でプラスアルファがどれくらいかかるかは不明ですが、まずはひと安心です。いくら、「大丈夫、大丈夫」と言われても消えなかった不安が、ここまでやってようやく消えていきました。

 

もう一つ「見える化」して大きな効果があったのは、「どういうところが不安なのか」が具体的な金額で示せるようになったことで、私の不安な気持ちを本当の意味で夫と初めて共有化できたことです。モヤモヤを一人で抱えなくてよくなり、楽になったのを覚えています。

50代のうちに「見える化」しておけば、対策も可能

「見える化」して課題が明らかになれば、あとは二人で対策です。

 

わが家の場合は、私が家を買うために貯めていた金融資産について、それを生活費には一切回さず温存し、さらに少しずつ増やしていけば、将来、私が医療や介護でまとまった資金が必要になってもなんとかなるだろう、ということになりました。

 

見える化して得られた「安心感」があったからこそ、夫婦して一気に会社員としての立場を捨てるという、崖から飛び降りるような選択をすることができたのです。

 

老後のお金は、寿命なども影響するため、その収支は本当にわかりません。

 

それでも、いくつかのパターン(90歳や100歳まで生存した場合など)を具体的にシミュレーションしてみると、霧が晴れたようにスッキリすると思います。

 

 

なかには、「金銭的な手当てを考えなければいけないことが判明しモヤっとした」という厳しい現実を見ることになるかもしれません。その場合も、計画していたリフォームや定年時のご褒美旅行などの大きな出費にかける金額を少し減らすといった対策もできます。

 

出費をした後で「もっと早くわかっていれば〇〇しなかったのに」というような後悔を避けるためにも、未来に向けた行動を選択できるようにするためにも、50代のうちに老後のお金の「見える化」をしておくことはとても大切だと思います。

 

 

大江 加代

確定拠出年金アナリスト

※本連載は、大江英樹氏と大江加代氏による共著『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル

お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル

大江 英樹
大江 加代

日本実業出版社

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