業界人は「経済の担い手」としての自覚を持つべき
介護業界のイメージアップは喫緊の課題ですが、我々自身が経済の担い手であるという自覚を持つことも必要です。
経済を減速させる大きな問題に、介護離職問題、ヤングケアラー問題があります。親の介護をするために離職したり、進学を諦めたり、シングルマザーでは子どもの面倒を見るために非正規で働くなど、ケアを巡る経済における損失は莫大です。介護離職一つとっても、その損失は6,500億円(年)と試算されています。
その中で、我々の事業そのものが、介護離職を減らし、働き手を確保することによって経済を潤す、つまり経済の減速を防ぐとういう使命も担っています。
やはり社会VS経済といった二項対立では、経済活動による富の象徴であるベンツやBMWが妬みに結び付き、行き過ぎた横並び主義が形成されますが、我々の社会的支援事業が経済成長を後押しするんだという意識さえあれば、そうした視点は生まれないはずです。経済と社会は共に歩むべきであり、その一端を我々が担いたいと考えています。
また、そうした意識が、介護職の地位向上にもつながると思っています。介護業界のみならず、保育士やベビーシッターなど人のお世話するサーバント的な職業は、家事やケアなどこれまで女性が担ってきたいわゆる再生産労働として、男性が担当してきた生産労働よりも下位に置かれています。ジェンダーの結果ともいわれる構図ですが、介護士や保育士の地位を高めるのは、まさにジェンダー平等の取組みでもあります。
以前はその地位を高めるに当たって闘争、社会運動として展開されてきましたが、それを今はガバナンス層の経営陣や政治家が内面化し、形にしていっている。それがすなわちSDGsですが、介護業界にもこの流れをうまく取り入れることが必要です。
介護は、AI時代においても「なくならない仕事」
IT化へのいち早い対応が介護の未来を作ると考えます。もちろんAIによって仕事が奪われるというリスクはありますが、18、19世紀に遡ってみても、工業化の流れの中で機械の導入に反対するといった労働組合の反合理化闘争などが最終的な勝利を収めたことはありません。一瞬、時の流れを遅らせる程度です。
私自身、社会運動出身なので、それを身をもって経験してきました。反合理化闘争である障害者運動に長らく身を投じてきた立場として、過去に向いたベクトルの難しさは、ロジックではなく体験として知り抜いています。やはり、時代の流れに沿っていくことが業界全体を活性化する上で大切だと思います。
介護業界では見守りシステムの導入などが現実的ですが、一方でこれだけIT化が進んでも最先端企業マクドナルドでは未だに従業員がハンバーガーを組み立てています。廉価でないロボットへの投資より、人を使うほうが経済合理性が高いからですが、実際、現場のDX化は時間がかかりますし、人件費のほうがむしろ安いということもあるので、テクノロジー化が必ず経済合理性に適うわけでもありません。
中でも介護士は最後に代替する業種だと言われています。やはり現時点でロボットは、介護士がしている微妙な体位変換や、指先を使った清拭・着替え・排泄介助といった細かい作業が苦手とされますし、とりわけ重度訪問介護では、利用者一人ひとりからまったく違う要求が出されるので、最も苦手な分野でしょう。
ロボットは補助程度の役割になると思いますし、マネジメントも最後まで残る仕事と言われているので、色々な業種がAIに代替される中で、この介護業界は仕事がなくならない。おすすめですね(笑)。
それに、重度訪問介護分野では、先日国連より「地域移行が遅れている」との勧告がなされました。政府もそちらに向かわざるを得ない状況だと思うので、当社も重度訪問介護のリーディングカンパニーとして財務省を納得させるエビデンスを作りながら、経済界の理解も求め、地域移行を推し進めていきたいと思います。
障害者、そして高齢者の地域移行が進む中で、介護業界へのニーズはますます増大します。人材を確保し、しっかりとそのニーズに応えるべく、介護業界全体が多彩なオーラを醸し出せるよう、魅力的な業界にしていきたいです。
高浜 敏之
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO
慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。