NISA拡充のもつ積極的意義
今回のNISA拡充は、岸田内閣が掲げる「資産所得倍増計画」とやらの一環です。また、従来の政府・与党の「貯蓄から投資へ」という考え方をさらに押し進めるものです。
国民にとっては、資金に余裕があるときに集中的に投資するができるようになったり、あるいは、期間を気にせずじっくり資産運用に取り組むことができたりというメリットがあるといえます。
ただし、注意しなければならないのは、上記のメリットも、余剰資金があればこそだということです。
NISA拡充に潜む危険性とは?
岸田政権が掲げる「資産所得倍増計画」はあくまでも、「資産所得」の原資となる余剰資金があり、かつ、一定のリスクを許容できる人にのみメリットがあるものです。
そうでない人には、メリットは乏しいといわざるを得ません。
たとえば、手取り15万円以下の人であれば、そこから家賃、食費、水光熱費を差し引くと、残った額を「いざというとき」のためにとっておくのがせいぜいです。投資に回す余剰資金が乏しいケースが大半であると危惧されます。
特に、就職氷河期世代に属する人やシングルマザーのなかには、非正規雇用で働かざるをえず、貧困から抜け出せない人がいます。もはや個人の自助努力でどうにかなるものではありません。
しかも、たび重なる消費税等の増税、物価上昇、実質所得の低下という現実があります。そこに対し、政府は現時点で有効な手立てを打てていません。
「月数百円でも数千円でもいいからやればいいではないか」と片付けるのは簡単です。しかし、それらの人々がおかれた抜き差しならない現実に対する想像力を著しく欠いた根性論の類にすぎないというべきです。
「資産所得倍増計画」の背後には、間違いなく、公的年金制度をはじめとした社会保障制度が担っていた役割の一部を国民の自助努力に委ねるというねらいがあります。それは、今後、高齢化社会の進行により、公的年金の給付水準の低下が避けられないことを考慮すれば、ある程度はやむを得ない側面があります。
しかし、特に今世紀に入ってから、与党・政府は、自己責任を強く要求するいわゆる新自由主義的な政策を推し進めてきました。そして、現在も、与党の有力な政治家の顔ぶれは大きく変わっていません。
現に、岸田首相は「令和の所得倍増計画」といって「格差是正」「所得再分配」に取り組むと大見得を切っていたのが、トーンダウンし、その結果、「資産所得倍増計画」にすり替わったという経緯があります。
そんななかで、「資産所得倍増計画」は、その性質上、一歩間違えれば、セーフティネットを整備するという国家本来の役割を放棄することにつながる危険性があることは否定できません。
しかも、わが国では、投資に関する基本的な理解が十分に広まっていません。高校での投資教育が始まりましたが、義務教育ではありません。事実上、投資のリテラシーを身につけることも、自助努力・自己責任に委ねられているといっていい状況です。
また、先述したように、本来は「つみたてNISA」のほうが「一般NISA」よりも万人向け・一般向けです。ところが、口座数が「一般NISA」より大幅に下回っています。2022年6月時点で「一般NISA」が約1,056万口座であるのに対し、「つみたてNISA」はその約半分の約587万口座にとどまっているのです(金融庁「NISA・ジュニアNISA口座の利用状況調査」)。このことも、投資に関する基本的な理解が十分に広まっていないことを示しています。
したがって、このままでは、国・社会から置き去りにされる人、見捨てられる人が出てくるおそれが危惧されます。
NISAの拡充の方向性自体は、余剰資金が多少なりともある人にとってメリットが大きいものといえます。しかし、それが公的年金制度をはじめとするセーフティネットの軽視、政府の責任の放棄につながらないか、国民の立場から、たえず監視の目を向けていかなければなりません。
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