景気は「自分で止まらない、方向転換もしない」
景気は、自分では止まったり方向を変えたりしません。景気には、上向きのときはそのまま拡大を続け、下向きのときはそのまま悪化を続ける力が働くのです。経済学の教科書に書いてある在庫循環等は過去の話なのです(後述します)。
景気が上を向いているときは、物が売れるので企業が生産を増やし、そのために労働者を雇いますから、雇われた労働者(=元失業者)が給料をもらって物を買います。こうして、ますます物が売れるようになっていくわけです。
企業の増産が続くと、新しい工場を建てる必要が出てくるかもしれません。そうなれば、工場建設のための鉄やセメントや設備機械等が売れるようになるでしょう。設備投資の資金を銀行から借りる際も、景気のいいときは企業が儲かっているので、銀行が気楽に金を貸してくれるでしょう。
基本は、政府日銀の「財政金融政策」
景気が拡大を続けると、いつかは景気が過熱します。景気がよくなりすぎてインフレになるのです。そうなると、政府日銀が景気をわざと悪化させてインフレを抑えます。その際には、金融引き締めが重要です。金利を上げれば借金して設備投資をする企業は減りますから、容易に景気を抑えることができるのです。
もっとも、悲しいことに過去30年以上、インフレになるほどの景気過熱は起きていません。景気拡大の勢いが弱いため、景気が十分拡大する前に後述する海外要因で景気が腰折れしてしまったからです。
一方で、景気が悪いときには、財政金融政策で景気の浮揚を図ります。その際は財政政策(公共投資や減税)が重要です。日銀の金融政策は、金利を下げたり資金供給を増やしたりする「金融緩和」となりますが、景気が悪くて工場の稼働率が低いときには、「金利が下がったから工場を建てよう」という企業は出てこないからです。
海外の景気変動が、国内景気を変動させる
リーマン・ショックを覚えている読者は多いでしょう。米国の景気が失速し、日本から米国への輸出が激減し、日本の景気も失速したのです。じつは、過去の景気後退の多くはリーマン・ショックと似たようなメカニズムで起きているのです。
バブル崩壊後の長期低迷期、日本は内需が低迷していたので、景気回復を輸出に頼り、外国の不況で輸出が減ると日本も不況になる、ということが続いていたのです。
日本の景気を変動させる主な要因は上記の2つ、すなわち財政金融政策と海外の景気ですが、それ以外にも様々な要因があります。
ひとつは、バブルの崩壊です。バブルは、いつ崩壊するか事前にはわかりませんし、事後的にも崩壊した理由がわからないことも多いのですが、崩壊後にはバブル期の公共の反動がきます。大きなバブルが崩壊した後は金融危機が発生して景気に深刻な打撃を与えかねないことも多いので要注意です。
また、原油価格高騰等によりインフレになり、庶民の財布が寂しくなって個人消費が落ち込む可能性、インフレ抑制のために日銀が金融を引き締める可能性、などもあります。好況時に労働者の賃金が上がってインフレになるならまだいいですが、産油国だけが儲けて日本の庶民も経済も悪影響を被るのは勘弁ですね。
もちろん、それ以上に勘弁なのが疫病や戦争による経済への悪影響です。これは、先行きが予想できないので人々が消費や投資に慎重になる、ということも含めて難題です。
こうしてみると、最近は原油高、疫病、戦争等が重なっているわけですが、そのわりには日本経済の不況感がそれほど深刻でないのは、少子高齢化により労働力不足となっている(少なくとも失業問題が深刻ではない)からという面もあるのかも知れませんね。
「景気循環」が、過去の話であるワケ
経済学の教科書を読むと、在庫循環、設備投資循環、などが景気を循環させると書いてありますが、これは昔の話です。かつて製造業が経済の中心で、企業の在庫管理技術が拙かった頃は、景気拡大期に多くの企業が生産を増やしすぎて在庫が溜まり、それが減るまで一斉に減産を続ける、といったことが起きていたわけですが、いまでは企業の在庫管理技術が上達していますし、そもそも経済の中心がサービス業なので、経済活動の中で在庫増減の重要性が小さくなっているのです。
設備投資に関しても、かつては景気拡大期に多くの企業が投資をしすぎて過剰な設備を抱え込み、それが使える間は設備投資をしなかったということが起きました。それらの設備が一斉に10年程度で更新期となり、多くの企業が一斉に設備を更新するための投資を行なう、ということが景気を循環させていたのでしょう。しかし最近では、コンピューター関係にように設備の更新間隔が短い物も増えているので、設備投資循環が景気を変動させるということではないのです。
今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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