(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産業者がせっかく優良な不動産物件を扱えても、その物件にまつわる複雑な法律トラブルがあると、物件が適正価格で売れず、依頼者の希望に添えないことがあります。そこで、せっかくのビジネスチャンスを失わないため有効なのが、法律の専門家である弁護士との「協業」です。本連載では、弁護士として不動産関係の数々の法律問題を解決してきた実績をもつ鈴木洋平氏が、不動産業者と弁護士の協業について事例を交え解説します。

成年後見人制度の落とし穴

そこでBさんは、Aさんの持ち家を売却しようと不動産業者に依頼しました。しかし、Aさんの財産を、Bさんが勝手に売ることは法律上できません。頭を抱えてしまった不動産業者は、知り合いの司法書士に相談しました。

 

すると、司法書士は成年後見制度を利用し、Bさんが成年後見人になることを提案しました。成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力の不十分な人のために、家庭裁判所が選任した成年後見人が財産を管理したり、施設への入所契約を結んだりすることができる制度です。

 

Bさんはその提案を受け入れ、司法書士が申請書類を作成して成年後見の申し立てをしました。その際、当然ながらBさんが成年後見人になる希望も添えました。

 

ところがです。家庭裁判所はAさんに資産(約1200万円)があることを理由に、Bさんではなく第三者の弁護士を成年後見人に選任しました。どういうことかというと、裁判所は、親族である後見人が横領等に及んだ事例が過去に多かったことから、多額の資産がある人の親族を後見人にしない方向性を打ち出していたのです。それをこの司法書士は考慮せず、説明もしませんでした。

 

そして、成年後見人に選任された弁護士は、自身の知り合いの不動産業者に持ち家の売却を依頼してしまいました。したがって、Bさんが相談していた不動産業者は取引に関与できなかったのです。

 

このような成年後見人に関する失敗例は意外に多いと感じています。不動産業者にとっては、「家庭裁判所がどのような場合に、どのような者を成年後見人に選任するのか」、「家族が成年後見人を担うにはどういう段取りを踏んだらいいか」をしっかり把握している弁護士と協業しなかったゆえの不幸といえます。

 

仮に弁護士と協業していれば、弁護士は以下のようなスキームを提案していたはずです。

 

まずAさんの判断能力が落ちる前の段階で相談を受けていれば、「任意後見契約」か「家族信託契約」をお勧めします。

 

「任意後見契約」とは、判断能力が落ちてしまったときに備えて、あらかじめ後見人になる者を指名しておく契約です。これを利用していれば、家庭裁判所は、契約で指名した以外の者を後見人に選任することは原則としてできなくなります。

 

「家族信託」とは、判断能力が落ちてしまったときに備えて、指定した財産(Aさんの場合は自宅不動産)の管理処分権を指定した者へ託しておく制度です。これによって売買契約は、Aさんが託した受託者が締結できるようになります。

 

また、この事例のように想定外の人が成年後見人となってしまう危険性があっても、対処法はあります。具体的には、弁護士が後見人に着任したうえで、「後見制度支援信託」または「後見制度支援預金」(家庭裁判所の許可がないと払い戻しができない預金)を利用します。

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不動産業者のための 弁護士との「協業」のすすめ

不動産業者のための 弁護士との「協業」のすすめ

鈴木 洋平

幻冬舎

相続、担保、借地・借家…… 不動産業者が直面する法律問題は弁護士との「協業」で解決! 不動産取引を成功に導く「協業」のポイントを 8つの成功ストーリーで徹底解説。 不動産業者必読の一冊! 「仕事になりそうな…

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