不動産業者が抱えがちな売買取引におけるトラブルとは…
「仕事になりそうな物件なのに、難しい法律トラブルが絡んでいる…」
こういった悩みを抱える不動産業者は、決して少なくありません。特に近年では、認知症などで判断能力が著しく低下してしまった高齢者の自宅売却にまつわるトラブルが増えています。
たとえば、戸建てで一人暮らしをしていたAさんは常々、「自宅を売却して老人ホームへの入所費用を捻出したい」と息子のBさんへ伝えていました。しかしある日、Aさんが脳梗塞で倒れ日常の判断能力が著しく低下してしまったため、Bさんが代わりに売却しようと不動産業者へ依頼したのですが、不動産がAさん名義のままだったため子どもであるBさんが売却することはできませんでした。
そのため、不動産業者は、Bさんが成年後見人になることを前提に、その手続きを進めていったのですが、家庭裁判所が成年後見人として選んだのはBさんではなく第三者の弁護士でした。しかも、その弁護士が別の不動産業者に自宅の売却を依頼したため、結局、Bさんから相談を受けた不動産業者は、不動産の売却に関わることができなかったのです。
筆者は、不動産関連を得意分野とする弁護士であり、不動産・建設会社の顧問先は50社以上、不動産に関する相談件数は年間数百件に達しています。冒頭で解説したような家族間の法律に関わる問題以外にも借地・借家などの法律トラブルにより、そのままでは売却できない、または買い手が見つからない案件も多くあります。
それらの法律トラブルをスムーズに解決し、取引を成立させるためには、不動産業者と法律の専門家が双方の知見を活かし「協業」することが欠かせません。
冒頭のようなケースの場合は、Aさんが判断能力を喪失する前から検討を開始していれば、「任意後見契約」または「家族信託契約」などを利用して不動産の売却を進めることが可能です。また、判断能力喪失後でも、適切な順序を踏めば後見人と連携して不動産取引に当たることは可能であり、Bさんから相談を受けた不動産業者も引き続き関与することができたのです。
本連載では、不動産業者に向けて、弁護士との協業のやり方やメリットを解説し、協業による成功事例を紹介します。弁護士とタッグを組み、協業することは、決して難しいことではないうえに、多くのメリットをもたらします。目の前に仕事になる物件があるのに、法律の壁で何もできないと悩む不動産業者にとって、本連載が弁護士に声を掛けるきっかけとなれば、筆者として望外の喜びです。