違法性の意識が希薄な「ウェブテスト」の替え玉受験だが…
これに対し、近年は、新型コロナウイルス禍のなか、ウェブテストが広がりを見せています。ウェブテストの場合は、試験会場がなく、試験中に誰かが隣にいたり、何かを参照したりといったことが容易にできてしまいます。そのため、従来の替え玉受験とくらべて簡単にできるうえ、心理的な障壁も低いといえます。
ウェブテストの場合、試験会場という「建造物」がないので「建造物侵入罪」は成立しません。しかし、替え玉受験自体については犯罪に問われます。
【本人と偽ってウェブテストに回答する行為】
1. 電磁的記録不正作出・供用罪(刑法161条の2第1項・第2項)
2. 偽計業務妨害罪(刑法233条)
電磁的記録不正作出・供用罪は、試験会場へ行って替え玉受験を行う場合の「有印私文書偽造罪・偽造私文書行使罪」の代わりとなるものといえます。
この場合も、同一の行為が「1」と「2」の2つの犯罪に該当するので、刑法54条1項により、重い「1」の刑が科されます。すなわち、適用される刑罰は刑法161条の2第1項または第3項の「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
もちろん、依頼した本人も、従来の「替え玉受験」の場合と同様、「共謀共同正犯」として同じ罪に問われます。
ここで、刑罰の重さに着目してください。
・従来の替え玉受験:「3月以上5年以下の懲役」
・ウェブテストの替え玉受験:「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」
従来の替え玉受験の場合は「懲役」(2025年以降は「拘禁」)しかありませんが、ウェブテストの替え玉受験は「罰金」のみで済むことがあります(ただし、法定刑が「懲役」しかなくても「執行猶予」がつく可能性があるので、必ずしも刑務所に入らなければならないとは限りません)。
このことから、ウェブテストの替え玉受験の方が、従来の替え玉受験よりも多少軽いという位置づけがなされていることになります。これは、違法性の意識が希薄になりやすいことを多少考慮したものと考えられます。とはいえ、最も重い刑が「懲役5年」であることは変わらないので、あくまでも「多少」にすぎません。
社会のIT化、DXが急速に進むなか、あらゆる局面で、「指先一つでダウン」となりかねないリスクが増大しています。しかも、故意か過失かを問わず、はっきりした心理的な障壁がないまま、いとも簡単に重大かつ深刻な結果を招くことになりかねません。場合によっては、多額の損害賠償責任を負うことになる可能性もあります。
ウェブテストに限らず、ウェブ上で情報をやりとりする際は、アナログで同じことをしたらどのような事態になるのか想像するとともに、慎重のうえにも慎重を期さなければならないといえます。
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