今回の逮捕容疑「電磁的記録不正作出罪・供与罪」とは
電磁的記録不正作出罪・供与罪は、「刑法161条の2」に規定されています。
【刑法161条の2】(電磁的記録不正作出及び供用)
・第1項(電磁的記録不正作出罪)
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
・第3項(電磁的記録不正供用罪)
不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
この規定は刑法の「第17章 文書偽造の罪」におかれています。「161条の2」と枝番号がついているのは、1987年に新設された比較的新しい条文だからです。
従来の「替え玉受験」はどう処罰されるか
◆3つの犯罪が成立する
ウェブテストがなく試験会場でテストを受けなければならなかった時代には、「替え玉受験」が重い罪であることがある程度認識されていました。
すなわち、従来、替え玉受験についてはもっぱら、以下の3つの犯罪の成否が問題とされてきました。
【本人と偽ってテストの答案を作成し提出する行為】
1. 有印私文書偽造罪(刑法159条第1項)・偽造私文書行使罪(刑法161条第1項)
2. 偽計業務妨害罪(刑法233条)
【本人と偽って試験会場に立ち入る行為】
3. 建造物侵入罪(刑法130条前段)
なお、複数の犯罪が成立しますが、「1」と「2」は1つの行為であり、かつ、「1」「2」は「3」と「目的と手段」の関係にあるため、もっとも重い「1」の刑が適用されることになります(刑法54条1項参照)。
すなわち、適用される刑罰は刑法159条第1項または161条第1項の「3月以上5年以下の懲役」です。
なお、2022年11月現在、「懲役」と規定されていますが、2025年以降、「懲役刑」は「拘禁刑」に変更されることが決まっています。「拘禁」は、従来の刑務作業が義務付けられている「懲役」と義務付けられていない「禁錮」とを統合するものです。
◆本人も「共同正犯」で同罪
替え玉受験は、依頼した本人も「共同正犯」(刑法60条)として罰せられます。
本人は首謀者であり、「替え玉」に依頼して対価も支払っていたということで、犯罪の結果発生に重大な役割を果たしています。したがって、実質的に共同して犯罪を実行したということで「共謀共同正犯」と扱われ、「替え玉」と同等の刑罰が科されます。