DXを推進するにあたって、システムやIT設備を導入するには多額のコストが必要になります。しかし、DX投資促進税制を利用することで、税額控除などを受けられるので、DX推進に大きな追い風をもたらします。
本記事では、DX投資促進税制の概要、メリット、申請の手順や注意点について解説します。
1. DX投資促進税制とは
まず、DX投資促進税制の概要と創設された背景について解説します。
1.1. DX投資促進税制は企業がDXを推進するのを支援する税制措置
DX投資促進税制は、システムやIT設備の導入に投資した費用を税額控除または特別償却が受けられる税制措置のことです。
DXを推進する際の費用面の負担を軽減し、日本企業のDXを促進する目的で2021年度の税制改正で新設されています。
対象企業に規模の大小は関係なく、青色申告法人かつDX認定を受けていれば申請が可能なため、コスト面の不安から導入に積極的になれない中小企業でも申請ができる点がポイントです。
1.2. 背景には経済産業省が公表した「2025年の崖」がある
DX投資促進税制が新設された背景には、経済産業省が公表した「2025年の崖」という問題が大きく影響しています。
「2025年の崖」は、日本企業が現状の複雑化・老朽化したシステムを使い続けた先に待ち受ける事態について警鐘を鳴らしたもので、克服できなければ2025年以降に1年あたり約12兆円の経済損失があると予想されています。
この「2025年の崖」を克服すべく、業界を問わず、日本企業にはDXの推進が求められているのです。
2. 企業がDX投資促進税制を利用するメリット
企業がDX投資促進税制を利用することで得られる2つのメリットを解説します。
2.1. 税額控除を受けられる
DXを推進するために導入した設備や技術への投資に対して、3%〜5%の税額控除を受けることができます。5%の控除を受けられるのはグループ会社以外の外部企業とのデータ連携に対する投資のみで、その他の投資については3%の控除となります。
DXを推進する際の投資金額は非常に大きいため、税額控除が受けられるのは大きなメリットです。
2.2. 特別償却により初年度の税負担を軽減できる
特別償却とは、通常時の減価償却費とは別で経費を追加計上できる制度です。DX投資促進税制では、30%の経費を特別償却として適用できるため、DX投資を行った初年度の納税額を抑える効果があります。
特別償却は、税額控除と異なり、納税のタイミングを先送りにする制度なので、トータルの納税額は減少しないという点に要注意です。また、同じ設備への投資に対しては上記で解説した税額控除との併用ができず、どちらかを選ばなければなりません。複数の設備に対して、税額控除と特別償却を使い分けることは可能なので、うまく使い分ける必要があります。
3. DX投資促進税制の対象設備と設備投資額
DX投資促進税制の適用可能設備や設備投資額には限りがあります。国税庁が公表している内容を基に解説します。
3.1. 対象となる設備
国税庁が公表している文書によると、対象となる設備は「情報技術事業適応設備」と「事業適応繰延資産」の2種類です。
「情報技術事業適応設備」とは、認定事業適応事業者が、情報技術事業適応のために特定のソフトウェアの新設もしくは増設をし、またはソフトウェアを利用するために必要な機械や設備への支出をした際の、特定ソフトウェアおよび関連設備のことを指します。
「事業適応繰延資産」に該当するのは、認定事業適応事業者が、情報技術事業適応を実施するために利用するソフトウェアのその利用に係る費用を支出した場合における関連の繰延資産です。
つまり、ソフトウェアの購入費用や整備費用、そのソフトウェアが関連する設備や技術に投資した費用が適用対象です。
3.2. 設備投資額の上限と下限
設備投資額の上限は300億円となっていますが、300億円を上回る投資計画であっても認定を受けることは可能です。ただし、税制措置の適用に際しては、特別償却限度額または税額控除限度額は300億円を基礎として計算されます。
「カーボンニュートラル投資促進税制」の控除が適用される場合は、法人税額の特別控除との合計で調整前法人税額の20%に相当する額が税額控除額の上限となります。
また、下限は売上高に対して0.1%以上の投資額となっており、10億円の売上高であれば、100万円以上を投資する必要があります。
4. 適用のための認定要件は2種類|両方を満たす必要がある
DX投資促進勢の認定要件は「デジタル(D)要件」と「企業変革(X)要件」の2種類を満たすことです。それぞれについて解説します。
4.1. デジタル(D)要件の内容
デジタル(D)要件とは、データ連携や共有、セキュリティに関するもので、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 自社の既存データと他の企業が持つデータを連携させる
- クラウドを前提としてデータの連携や活用の仕組みを構築する
- 情報処理推進機構(IPA)による審査を受け、DX認定を取得する
DXはデジタル技術の活用が前提となっているので、クラウドの利用やデータ連携などを適切に行った事業適応計画を作成したうえで、DX認定を取得する必要があります。
DX認定は、情報処理技術の活用の方向性や方策、体制や設備などの6項目が審査され、基準をクリアしていると取得可能です。
4.2. 企業変革(X)要件の内容
企業変革(X)の要件は、生産性や売上の向上に関するもので、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 計画期間内でコスト削減が見込まれること(商品の製造原価を8.8%以上削減)
- 生産性向上又は売上上昇が見込まれること(生産性向上はROAが2014年〜2018年平均から1.5%上昇、売上伸び率は過去5年から5%上昇)
- 全社の意思決定であることを示す(取締役会等の決議文書を送付等)
これらの要件を満たすためには、既存業務の課題を洗い出し、経営陣が積極的にリーダーシップを取ることで、生産性や売上を向上させるプランを練ることが大切です。
5. DX投資促進税制の適用を受ける流れ
DX投資促進税制は主に4つの段階を経て適用されます。
5.1. 税制の内容やスケジュール感を把握する
まず、DX投資促進税制の内容を確認し把握したうえで、自社の業務内容を見直し、DX投資促進税制の要件を満たすことができるのかを社内で慎重に検討しなければなりません。
DX投資促進税制の適用期限は2023年3月31日までとなっているため、スピード感を持ってDXに取り組む必要があります。
5.2. DX認定を取得する
DX投資促進税制の適用には情報処理推進機構(IPA)が実施している審査を受け、DX認定を取得することが必要不可欠です。
DX認定は下記の4分野から6項目にわたって審査されたあと、基準を満たせば認定を受けることができます。
- 経営ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略(組織やデジタル技術の活用)
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
DX認定の審査を受けるためには、IPAのWeb申請システム「DX推進ポータル」にアクセスし、必要書類を揃えて申し込む必要があります。
DX認定については「DX認定制度とは?取得のメリットと要件、申請手続きのポイントを解説」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
5.3. 事業適応計画の作成と申請をして認定を受ける
DX投資促進税制を適用するためには、事業適応計画書を提出して、経済産業大臣の認定を受ける必要があります。事業適応計画に記載する項目は下記のとおりです。
- 事業の目標
- 事業の内容
- 投資の内容
「生産性の向上やコストの削減」、「新しい価値の創出」など、デジタル技術をどのように活用してどういった成果を得るのかという事業の目標や内容について、具体的な数値と期間を記載して示すことが大切です。また、投資するデジタル技術や設備の種類・数量・金額・時期などを具体的に記載しましょう。
事業適応計画の申請時には、「情報技術事業適応に係る確認申請書」も合わせて提出する必要があります。
5.4. 計画の実施と税務申告を行う
事業適応計画が認定されたあとは、ソフトウェアや設備などのデジタル技術を導入し、計画を実行に移します。そして、適用事業年度の終了時に税額控除か特別償却を選択して税務申告を行います。
税務申告のほかにも、適用事業年度の終了から3ヵ月以内に「実施状況報告書」を提出する必要があります。
6. DX投資促進税制を利用するにあたっての課題・留意点
DX投資促進税制を利用するにあたっての課題や留意すべき点を3つ紹介します。
6.1. DX認定の取得に時間がかかる
DX投資促進税制を活用するために必要なDX認定は、取得までに時間がかかるので注意が必要です。
申請は1年を通していつでも可能となっていますが、申請が受理されてから結果の通知までに約3ヵ月程度かかります。
6.2. 事業適応計画に多くの工数がかかる
経済産業大臣の認定を受けるために必要な事業適応計画は、書類を作成して提出するだけではありません。
自社の業務工程やシステムなどを見直し、数値化するところから始まります。社内での議論を重ねた末に作成されるものなので、多くの工数が必要となるでしょう。
6.3. 税務プランニングが必要
DX投資促進税制は税額控除と特別償却の措置を受けられますが、自社にとって最適な選択をするとともに、正確な数値を導きだす必要があるので、専門的な知見が求められます。
特に中小企業などでは、社内の人材で対応できない場合もあるので、税理士に相談したり、コンサルティング会社などを活用したりするのも1つの手です。
7. DX投資促進税制の適用を受けた事業適応計画の具体例
DX投資促進税制の適用を受けるには必要な手順が多く存在し、難しいと考えられている方も多いでしょう。実際に適用を受けた事業適応計画の具体例を紹介するので、作成の際の参考にしてください。
7.1. 外食産業での認定事例
外食産業での認定事例として、ファミリーレストランをチェーン展開している株式会社すかいらーくホールディングスの例があります。
同社は顧客ニーズの多様化や働く世代の減少といった社会の変化に対応するため、グループ内データ連携を実施し、より効率的なデータの活用や先進技術を用いることで顧客満足度の向上を計画しました。
主な取り組みとしては、店舗に配膳用のロボットを導入することで、省人化や迅速なサービスの提供を実現させています。
7.2. スーパーマーケットでの認定事例
スーパーマーケットでの認定事例としては「ライフ」を展開しているライフコーポレーションの例があります。
ライフコーポレーションは、ネットショッピング需要の拡大やキャッシュレス決済の拡大など、顧客ニーズの変化に対応するための計画を立てました。デジタル技術を活用することで、オンライン・オフラインを問わず、シームレスな買い物環境を構築することで売上の増加と生産性の向上を見込んでいます。
会員情報を分析・蓄積し、アプリや販促手段と繋げてリアルとデジタルが調和することで実現する「デジタルなお買い物体験の提供」、基幹システムやPOSに存在する在庫情報に社外の情報も加えて行う需要予測、物流と繋げることで実現する「従業員負荷の軽減」が事業適応計画の柱となっています。
8. DX投資促進税制はいつまで?経産省は延長を要望【令和4年度資料】
現状、DX投資促進税制の適用期限は2023年3月31日までと設定されています。しかし、米国と比較した場合の進捗や企業の自己診断の結果によると、日本のDXは未だ道半ばであるといえます。
この現状を鑑みて、経済産業省は2022年8月31日に、税制改正の要望を国に提出しています。
要望の内容は、適用期限を2年延長して2025年3月31日までと設定することです。より一層効果的なDXを進めるため、デジタル投資を支援する姿勢を示しています。
まとめ
DX投資促進税制の活用は、DXを推進する企業にとって、税額控除や特別償却など、コスト面で大きなメリットをもたらします。
ただし、DX認定の取得や事業適応計画を提出する必要があるなど、準備に時間がかかるため、スピード感を持って行うことが大切です。
本記事で紹介した手順や注意点を参考に、DX投資促進税制の申請を行い、自社のDX推進に役立ててください。