「DX認定」はデジタル技術の活用を推進するためのものです。DXと名前がつくだけに、IT企業や大企業でないと取得できないと思っている人も多いかもしれません。
しかし、DX認定制度は、業種・規模にかかわりなく、これからDXを推進する企業を後押しする制度でもあります。
本記事では、DX認定のメリット、手続き、認定条件などを解説します。
1. DX認定制度とは?制度の概要と背景、位置づけを整理しよう
「DX認定制度」がどのようなものなのか、制度の内容やその背景を解説します。
1.1. DX認定制度とは「DX推進を行っている事業者を認定する制度」のこと
DX認定制度とは「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を行っている事業者を認定する制度」で、2020年に経済産業省により創設されました。
大企業だけでなく、中小企業、スタートアップ、個人事業主や公益法人などすべての事業主が対象です。また、事業内容や業種も問わないため、農業などの一次産業でも認定をとることができます。
1.2. DX認定制度ができた背景にある「2025年の崖」
DX認定制度ができた背景には「2025年の崖」という課題があります。
「2025年の崖」とは「古いデジタルシステムが残り続けた場合、2025年以降の年間経済損失は最大12兆円にのぼる」とした試算で、2018年に経済産業省が発表しました。
この発表のなかで、2025年の崖を引き起こす原因として「複雑化、老朽化、ブラックボックス化した既存システム」の存在が挙げられています。
経済損失を食い止めるためには既存システムを刷新する必要があり、そうした対策の1つとしてDX認定制度が創設されました。
1.3. DX認定制度の難易度|どの程度推進すると認定されるのか?
DX認定をとるにあたって、DXが完了している必要はありません。DXを行う準備が整っている状態(以下「DX-Ready」)であることが認定の条件です。
DX-Readyについては、以下のように定義されています。
“ビジョンの策定や、戦略・体制の整備等をすでに行い、ステークホルダーとの対話を通じて、デジタル変革を進め、デジタルガバナンスを向上していく準備が整っている事業者”
システムの入れ替えまでは完了していないものの、DXによる企業経営戦略やDXを推進するための社内体制の構築が完了している状態です。
2. DX認定を取得することで得られる5つのメリット
DX認定は対外的なアピールだけでなく、社内の課題解決や税制など多方面でのメリットが期待できます。本項では5つのメリットを解説します。
2.1. DX認定のロゴマークが使用可能になる
DX認定を取得すると、認定ロゴを使用できるようになります。ロゴを名刺や企業サイトなどに掲載することによって、業務効率化や新しい技術への積極的な取り組みをアピールして企業価値を高めることができます。
また、新入社員を対象にしたアンケートでは4割以上が「DXの推進度合いを企業選びの基準にした」と答えており、採用面でも有利になります。
2.2. 自社の課題を整理してDXを推進できる
DX認定を申請するためには、社内体制などを含めた自己チェックシートや幾つかの質問に回答する必要があります。この過程で、自社が抱えている課題を整理することができます。
DX認定はデジタル化を進めるだけでなく、DXを推進することで業務改善を図ることが含まれます。チェックシートを用いることで、客観的に業務を見直し課題を発見することができるでしょう。
2.3. 税制優遇措置を受けられる
デジタル関連投資に対する「DX投資促進税制」という税額控除の制度があり、対象となる設備投資等に対して以下の優遇を受けられます(いずれも上限、下限あり)。
- 3%の税額控除(自社グループ外とのデータ連携を行う場合は5%)
- 30%の特別償却
DX認定を受けることは、この税制優遇を受けるための必須要件の1つとなっています。
2.4. 中小企業は低い利率で融資が受けられる
DX認定を取得した中小企業であれば、日本政策金融公庫からの融資を受ける際の利率を下げることができます。
また、中小企業信用保険法の特例が適用されるようになります。これにより、金融機関からの融資を受ける際に信用保証協会の保証枠を追加したり拡大したりすることができるため、事業拡大や設備投資の資金を融通しやすくなります。
2.5. DX銘柄に応募できる
上場企業のうち「デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものの変革及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業」を、経済産業省が「DX銘柄」として選定しています。
上場企業がDX認定を受けると、このDX銘柄の選定対象として応募することができるようになります。DX銘柄は今後の成長が期待できる企業として投資家に認知されやすくなり、企業の時価総額向上につなげることができます。
3. DX認定制度の申請をするには
DX認定を受けるための申請手続きについて、申請先や費用などを含めて解説します。
3.1. 申請はIPAへ行い、経済産業省が認定する
DX認定に関する事務手続きは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行っています。問い合わせ窓口もIPAですが、DX認定自体を行うのは経済産業省です。
申請はIPAが公開しているWeb申請システム「DX推進ポータル」から行います。ExcelやWordでダウンロードして作成するファイルもありますが、提出はすべて申請システムからのアップロードです。なお、申請してから認定結果が届くまでは、約60日かかります(土日祝を除く)。
3.2. 申請できる時期・対象と必要な費用について
DX認定は1年を通じていつでも申請できます。
申請できる対象は、すべての法人と個人事業主となっており、会社のほか公益法人等も申請ができます。ただし、グループ企業での申請(親会社と子会社の一括申請)はできません。親会社と子会社でそれぞれ別々に申請が必要です。
また、DX認定については、申請時、認定取得時のいずれも費用はかかりません。更新料などの維持費用も不要です。
4. DX認定制度の申請を行うまでのプロセスの一例
社内でどのような手続きやコンセンサスのとりまとめが必要なのか、参考例を紹介します。あくまで一例なので、この手順でなければ認定されないということはありません。
4.1. 経営ビジョンを策定し取締役会等の承認を得る
まずはDX推進による経営ビジョンを策定しましょう。自社の現状や経営環境を踏まえ、DX推進を含めた今後の方向性を決めていきます。
ビジョンが策定できたら、取締役会等の承認を得ます。なお取締役会がない場合は「取締役会に準ずる機関」での意思決定があれば問題ありません。
4.2. DX戦略を策定し取締役会等の承認を得る
ビジョンが承認されたら、ビジョンの実現に向けた戦略を立てます。戦略には以下の2点を含みます。
- 体制、組織案
- ITシステムの整備に向けた方策
戦略を策定したら、取締役会もしくは取締役会に準ずる機関での承認を得ましょう。
4.3. DX戦略推進管理体制を策定して公表する
戦略の実施状況を管理し進めていくために、以下のような指標・仕組みを策定して社内に公表します。
- DX推進の実施状況を図るためのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)
- 実施状況を管理するための仕組み
現状のシステムや、実際の業務で必要なものを把握したうえで策定しましょう。
4.4. 経営者が情報発信を行う
戦略や体制を策定したあとも、適宜経営者がDXについての情報発信を行います。企業サイトへ掲載するなどして社外へメッセージを伝えましょう。また、DXへの移行をスムーズにするには、社内へのメッセージも重要です。
4.5. 自己分析を行い結果を整理する
DX推進ポータルでのセルフチェックを利用するなどして、自社の分析を行い、分析結果を整理します。KPIの達成状況が芳しくない場合などは、必要に応じて体制の見直しなども行いましょう。
4.6. セキュリティ監査報告書をとりまとめる
経済産業省が公開している「サイバーセキュリティ対策ガイドライン」などを参考に、セキュリティ監査を行って報告書をとりまとめましょう。
社内監査だけでなく、デジタル分野に強い監査法人による外部監査を行うと、問題点を把握しやすくなります。
4.7. 認定申請書および添付資料を作成して提出する
体制の構築など社内での準備が整ったら、申請書類を準備しましょう。書類は郵送ではなくDX推進ポータルから提出します。
必ず用意しなければならないのは「申請書」と「申請チェックシート」の2点です。そのほか戦略や監査結果などの補足資料があれば提出しましょう。
5. DX認定制度の要件とデジタルガバナンス・コードの関係
DX認定の取得にあたって指針となるのが「デジタルガバナンス・コード」です。
5.1. デジタルガバナンス・コードとは「経産省が取りまとめた経営者の行動指針」
「デジタルガバナンス・コード」とは、デジタル技術による社会変革のなかで経営者に求められる行動指針です。DXに向けた企業の自主的な取り組みを促進するため、2020年に経済産業省が発表しました。
ビジョンや人材戦略など、4分野6項目の柱からなります。2022年には新型コロナの影響も踏まえた「デジタルガバナンス・コード2.0」が策定されました。
5.2. 認定要件は「認定基準=デジタルガバナンス・コード」を満たしていること
DX認定の申請書に記載する項目は、デジタルガバナンス・コードの項目にそれぞれ対応しています。項目ごとに基本となる考え方と認定基準が設けられており、DX認定の取得にはその基準をクリアすることが必要となります。
また、すべての事業主が対象となっているため、中小企業や個人事業主など、取り組みの規模や人員規模は小さくとも基本的な方針は満たす必要があります。
5.2.1. 申請書・設問(1)
設問(1)は「経営ビジョン・ビジネスモデル」に関する項目です。デジタルガバナンス・コードの「1.経営ビジョン・ビジネスモデル」に対応します。
以下のように基本となる考え方が定められており、DXを推進することが企業の価値創造につながることが求められています。
“企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。”
認定基準もこの考え方に準じたものとなっており、社会や市場の変化に対してIT技術を踏まえたビジョンや戦略を打ち立て、それを公表していることが基準となります。
5.2.2. 申請書・設問(2)
設問(2)は「戦略」の項目です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「2.戦略」です。この項目では以下の考え方が定められており、デジタル技術の活用が事業戦略の実現に資するものであることが求められています。
“柱となる考え方
企業は、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきである。”
認定基準は、この考え方に基づき「ビジネスモデルの実現に向けて、デジタル技術の活用を踏まえた戦略を公表しているかどうか」です。
5.2.3. 申請書・設問(2)①
設問(2)の1項目目は、戦略のなかでも「人材戦略」に焦点を絞った設問です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「2.1.組織づくり・人材に関する方策」です。この項目では、社内体制だけでなく、ベンダーなど外部との協力も重要な要素となります。
“柱となる考え方
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきである。その際、人材の育成・確保や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきである。”
体制の整備について検討や合意形成がなされているかが認定基準となっているため、取締役会の議事録などで確認されます。
5.2.4. 申請書・設問(2)②
設問(2)の2項目目は「ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策」です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「2.2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策」です。この項目では、特にハード面での環境整備に焦点が当てられています。
“柱となる考え方
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきである。”
認定においては、どのようなシステムを利用するのか、またその投資に係る計画が建てられているだけでなく、それらが株主や役員会などステークホルダーに公表されていることが求められます。
5.2.5. 申請書・設問(3)
設問(3)は「3.成果と重要な成果指標」です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「3.成果と重要な成果指標」です。この項目では、デジタル技術を活用した戦略に関する進捗管理と、その情報公開を求めています。
“柱となる考え方
企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すべきである。”
KPIなど指標を公表しているかどうかが認定の基準ですが、指標と実際の取り組みが紐づいていることも認定判断の重要な要素となります。
5.2.6. 申請書・設問(4)
設問(4)は「ガバナンスシステム」です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「4.ガバナンスシステム」です。この項目では、企業のトップである経営者や取締役会が戦略の実施において適切な役割を果たしているかどうかが問われます。
“柱となる考え方
経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきである。”
認定基準は、経営者が社外に向けた発信をおこなっていることです。経営者名義での書面が公式サイトに掲載されているなど、社外へ公開されている文書の有無で確認します。
5.2.7. 申請書・設問(5)
設問(5)も(4)に引き続きガバナンスシステムの項目です。対応するデジタルガバナンス・コードの項目は「4.ガバナンスシステム」です。
経営者の果たすべき役割として、自社やデジタル技術に関する社会の状況を把握、分析し、必要に応じて戦略を見直すことが求められています。
“柱となる考え方
(中略)
経営者は、事業部門(担当)やITシステム部門(担当)等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきである。”
この項目では技術動向や課題の把握を行なっているかどうかが認定の基準となります。自己診断の結果などで評価されます。
5.2.8. 申請書・設問(6)
設問(6)もガバナンスの内容です。設問(4)(5)と同じく、デジタルガバナンス・コードの 「4.ガバナンスシステム」の一部に対応します。この項目では、サイバーセキュリティリスクへの対応について問われます。
“柱となる考え方
(中略)また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきである。”
認定基準はサイバーセキュリティ対策の実施状況となっており、監査結果や、中小企業であれば「SECURITY ACTION制度※」の宣言でも確認されます。
※ SECURITY ACTION制度…IPAが実施するセキュリティ対策に関して自己宣言する制度
6. DX認定事業者一覧(企業一覧)とDX認定制度の難易度をチェックしよう
DXに認定されている事業者の一覧は、DX推進ポータルサイト「DX推進ポータル|DX認定制度 認定事業者の一覧」から確認できます。
この一覧を見てみると、大企業のほか一般財団法人や合同会社などでも認定されていることがわかります。また業種も製造業や建設業、不動産会社など多岐にわたっています。取得企業の幅広さからもわかるとおり、DX認定の取得は極端に難しいわけではありません。
何から始めればよいのかわからないという方は、DX認定を支援するコンサルティングサービスを利用するとよいでしょう。
7. DX認定企業の事例(リコージャパン)
実際にDX認定を取得した企業として、リコージャパン株式会社の例をご紹介します。
同社は2017年からIT技術による働き方改革やデータの活用に取り組んでいましたが、テレワークの普及により主力事業である事務機器の需要が落ち込んでいました。
そんななか「デジタルサービスの会社への変革」を目指し、2021年にDX認定を取得。デジタル技術を活用した新しいサービスをリリースし、業務のリモート化、DX部門の創設など、対外的にも社内的にもDXを推し進めています。
まとめ
DX認定について、概要と認定を受けるための手続きを解説しました。
- DX認定は「DXに向けた準備が整っている事業者」を認定する制度
- 事業規模や業種は不問
- 申請はポータルサイトからいつでも無料で行える
- 申請書の内容は「デジタルガバナンス・コード」に準じている
DX認定は申請に向けた準備の過程でもメリットの多い制度ですので、ぜひ、チャレンジしてみることをおすすめします。