出産育児一時金の一部を後期高齢者に負担させることの重大な意味
これまで、出産育児一時金の財源は、74歳未満の世代が保険料を負担する公的医療保険制度の枠内で賄われてきました。これに対し、今回、厚生労働省が提示した案は、後期高齢者にも応分の負担をさせようというものです。
もともと、後期高齢者医療制度が創設される前は、出産育児一時金の財源は75歳以上も含め全世代で負担していたものです。その意味では、出産育児一時金に関する限り、74歳以下の公的医療保険制度と75歳以上の後期高齢者医療制度の垣根を一部取り払うものといえます。
ただし、後期高齢者は、年金以外の収入が限られていることが多く、現役世代より所得が低い人が多いため、どのように負担してもらうかという問題が生じます。
そこで、後期高齢者のなかでも、低所得者の負担を抑えるとともに、高額所得者の負担割合を大きくするために、後期高齢者医療制度の保険料のしくみに変更を加える必要があります。具体的には、以下の2つの方法が考えられます。
・「所得割」と「均等割」の割合の見直し
・保険料の「上限額」の引き上げ
これらが実現すると、結局のところ、負担が大きくなるのは、後期高齢者のなかでも、現役並みの所得を得ている人を始めとして、比較的高額な所得を得ている人ということになります。
今後、人生100年時代を迎えるといわれ、高齢者の人口は増加し、全人口に占める割合も大きくなっていきます。他方で少子化が進み、現役世代の負担が過大になっていくおそれがあります。そんななかで、社会保障制度を構築する上では「世代間の格差」と「所得の大小による格差」の両方を考慮し、公平な制度を設計しなければなりません。
その意味で、出産育児一時金について後期高齢者に一部負担させるという動きは、後期高齢者医療制度がゆらいでいることを端的に示すものといえます。
どういうことかというと、今回、厚生労働省が提示した案は、いったん設けた公的医療保険制度と後期高齢者医療制度の垣根を部分的に取り払い、融合させるものです。その意味では「世代間の格差」に目配りしたものといえます。また、後期高齢者医療制度の内部においても「所得の大小による格差」にも目配りしたものととらえることができます。
しかし、同様の問題を抱えているのは、出産育児一時金だけではありません。今後、社会保障制度のあらゆる面で「世代間の格差」と「所得の大小による格差」が問題となっていくことが予想されます。そのなかで、究極的には、「75歳」という年齢を境に大きく異なる公的医療保険制度と後期高齢者医療制度という2本立ての制度を採用していることの合理性・正当性が揺らいでいく可能性が考えられます。
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