行動すべてを監視…「高賃金に釣られた」労働者たちを待ち受けていた厳しい生活

行動すべてを監視…「高賃金に釣られた」労働者たちを待ち受けていた厳しい生活
(※写真はイメージです/PIXTA)

「働き方改革」という言葉も浸透しつつあるなかで、私たちの「働き方」は今後どのように変わっていくのでしょうか。世界史の面白いネタを収集するブログやYouTubeチャンネルを運営し、歴史ライターとして活動する尾登雄平氏が、著書『激動のビジネストレンドを俯瞰する 「働き方改革」の人類史』から、世界各国が歩んできた労働の歴史と、日本における働き方の未来について解説します。

 

私生活に介入する経営者たち

アメリカの大量生産時代を象徴する人物がヘンリー・フォードです。フォードは自動車「モデルT」の大量生産と安価化を実現し、製造業に革命をもたらしました。部品を徹底的に標準化し、組み立てラインにコンベヤーを採用し、労働者に一部分の組み立てのみを行わせる。この生産方式が、有名な「フォード・システム」です。

 

フォードは1914年、労働者に対して1日8時間で日給5ドルの賃金を払うことを発表します。これは当時の労働者の賃金の約2倍にあたる額だったので、就業希望者が殺到しました。

 

しかし5ドルの報酬を得るには、職場のみならず家庭のすごし方においてもフォードが規定した標準に合格せねばなりませんでした。こうした会社側の監視に加え、「ネジをただ回すだけ」の単純労働による精神的苦痛で、労働者は次々に退職していきます。

 

当時のフォード社の単純労働を皮肉った映画が、チャップリン監督作品の『モダン・タイムス』(1936年)です。主人公チャーリーは毎日ナットをスパナで締める単純労働に従事し、行動を全て会社に監視されます。やがて彼は精神的にまいってしまい、精神病院に入院してしまうのです。

 

それまで裁量権の高い仕事をしていた労働者にとっては、監獄に閉じ込められたような不自由さと苦痛を感じたことでしょう。

容赦なく町から追放も

当時はフォードのように、経営者が労働者の私生活にまで干渉し、経営側にとって都合の良い「善き労働者」を作ろうとするのがある種のトレンドでした。アメリカの鉄道関連企業、プルマン社もその一つです。

 

プルマン社は鉄道車両の製造だけでなく、搭乗する車掌やボーイ、調理人までトータルで鉄道会社にリースするビジネスで急成長しました。

 

1884年、社長のジョージ・プルマンはイリノイ州に新たな鉄道車両製造工場を建設し、同時に工場で働く従業員が住むための町「プルマン」も建設しました。この町には1000軒もの庭付き住宅、そして公共施設が建設され、ガスや水道といったインフラも設備された、当時としては先進的な町でした。

 

ところが、プルマンに暮らすには、社長ジョージ・プルマンが指示する厳しい生活を送らなくてはいけませんでした。住民同士の集会は禁止され、本棚には会社から指定された本が並び、劇場でも会社推奨の演劇のみが上映されました。会社の抜き打ち検査もあり、引っかかると容赦なく町からの追放を命じられました。

 

現代の日本企業でも私生活に関する指導が入る場合があります。社史や創業者の本を渡されるなどして、忠誠心を育むように求められる会社もあるでしょう。

 

19世紀、20世紀のアメリカでも、すでに似たようなことが行われていたわけです。

 

激動のビジネストレンドを俯瞰する 「働き方改革」の人類史

激動のビジネストレンドを俯瞰する 「働き方改革」の人類史

尾登 雄平

イースト・プレス

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