究極、不動産仲介なんてなくなってもいい
売主の利益を極限まで考慮するのであれば、仲介業者を挟まないのが最善です。売主と買主の間で直接取引すれば仲介手数料が掛からないからです。
個人間で直接取引できるインターネットオークションのように、個人が不動産を気軽に売りに出せるようになれば、誰でも仲介を経由することなく売買ができるようになります。現代の技術を用いれば容易に実現可能です。
実際にそのようなサービスは世に登場していました。プラットフォーム上に売主が自分で不動産を登録し売却するサービスです。買い手がつき売却成立となったとき、売主が負担する手数料は0円、つまり売却価格がそのまま売主の取り分となります。
しかしこのプラットフォームは順調には発展しませんでした。本来であれば仲介担当者が担うべき責任を売主がすべて背負うのは、不動産取引はあまりにも重責でした。売却に当たって立ちはだかるさまざまな課題を克服するには個人の力だけではどうにもならない部分も多く、大きな買い物であるがゆえ、専業となって補佐していく存在は不可欠であるという事実が浮き彫りになったといえます。
たとえば「値付け」が売主の頭を大いに悩ませます。いったい自分の不動産はいくらくらいが適当なのか、素人ではなかなか見定めることができません。周辺の相場を調べたり不動産関連会社に無料査定を依頼したりなどすればある程度の価格は絞れるかもしれませんが、売却の最後の最後まで「本当にこの価格で大丈夫なのだろうか、本当はもっと高値でも売れたのではないか」といった不安に付きまとわれることになります。
買い手のなかには取引慣れしたプロの不動産買取業者もいます。値下げ交渉をもちかけられ、本来の価格よりも安値で売却することにもなりかねません。手数料の上乗せを考慮しても専門の仲介会社に依頼して売ったほうが得だった、という本末転倒な結果を招くこともあるわけです。
いくらで売るべきか、どのタイミングで売るべきか、どうやって売るのが正しいのか、売主が当たり前のように抱く漠然とした問いかけに、的確な回答を与えてくれるアドバイザーは欠かせません。そこにお金を掛けることで、不動産の本来の価値を見出し、さらに付加価値も加わり、後悔のない売却が叶うものなのです。
仲介を経由せず直接取引できるプラットフォームも不動産を売る選択肢の一つとして、今後調整を加えて発展していくべきです。しかしその一方で、不動産エージェントのような不動産の悩みを気兼ねなく相談できる存在も、これからより一層の存在感を放っていくべきです。
ただし、不動産取引の仲立ちをするだけの単純な仲介業としての存在意義は、今後著しく失われていくのは間違いありません。この不動産に自分が関わることで、どのような付加価値を与えることができるのかをとことん追い求められる理想のエージェントだけが、今後業界でより価値を高めていくことになります。
大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長
長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長