今回は、ベトナムでの「商談」や「契約」を進める際の注意点を見ていきます。※本連載は、雑誌やウェブなど幅広い媒体で活動するベトナム在住のフリーライター・古川悠紀氏の著書、『ベトナムとビジネスをするための鉄則55』(アルク)の中から一部を抜粋し、経済成長著しいベトナムの地で、円滑にビジネスを行うために欠かせない知識やヒントを紹介します。

「契約の意思」などは可能な限りその場で回答

Q.ベトナム企業と商談を進めたり契約をしたりするときの注意点を教えてください。

 

A.商談を成功させるコツは、その場で契約締結を決められないとしても、可能な点は回答し、検討する点を明確にして伝えることです。

 

ベトナム人との商談において重要なポイントは、契約する意思があるかどうかをなるべく早く回答すること。商談を終えて、「検討する」「本社(上司)と相談する」などと言葉を濁していると、相手はこちらをただのメッセンジャーと見なして、途端に商談を継続する意欲をなくしてしまいます。

 

もしその場で契約を結ぶ決定権を持っていないのであれば、「ここまではイエス。しかしここからは検討する」というふうに、可能な限りその場で回答し、検討するポイントを明確にして伝えると、相手も納得してくれます。また、「上司」などという言葉は出さず、あくまでも自分自身が検討し、判断するように見せましょう。

 

商談の言語は、基本的には英語か日本語です。もし相手が英語とベトナム語のみを話し、こちらが通訳を用意する場合は、通訳者と先方の担当者がベトナム語でやり取りすることになります。その際は、通訳者との事前の打ち合わせが重要です。

 

ベトナム人通訳者は商談中、こちらに逐一確認せず、時に自分の意見を言って勝手に商談を進行してしまうことがあります。日本人は蚊帳の外に置かれ、どんな話をしているのか分からなくなってしまうときがあるので、同じオフィスのベトナム人社員に通訳を任せるのであれば、日ごろから指導が必要となるでしょう。

 

現地で外部通訳者を雇う場合は、自社と商談相手の企業の情報、関係性、商談の目的、理想の結果、最低限これだけは達成したいという要望などを伝えましょう。また、商談中に少しでも不明な点があったら、必ず確認するように徹底することも大切です。こちらも、商談中は随時「今どんな話をしてるの?」と進行を止めてでも尋ねた方がいいでしょう。

 

ベトナム企業と契約を交わすときは、どんな細かいことでも書面に起こすことが大切です。書類が5枚、10枚となっても、細かく記載し、できれば弁護士に仲介してもらい、法的効果があることを相手にも確認させた方がいいでしょう。

 

また、レッドインボイス(※以降の連載にて詳述)が必要な場合は、契約書に相手企業のタックスコードと支払い予定日を記載することが必須です。中小のベトナム企業は支払いサイトを一般に定めていませんので、契約を交わす際、必ず支払い日を聞き、書面に起こす必要があります。できれば経理担当者とも名刺交換をするといいでしょう。

「ベトナム企業」を接待すると、対等な関係が崩れる!?

契約書は相手が現地企業、日本企業を問わず、ベトナム語で記載するのが基本です。相手が日本企業の場合は、日本人にも分かるように英語か日本語の翻訳を付けるよう指示することもありますし、相手がベトナム企業であっても、契約内容の確認のために翻訳する必要があります。ただし、ベトナム語の契約書との間に誤訳が生じることも考えられるため、翻訳は専門の会社に依頼し、さらに重要な個所は社内でも念入りにチェックしましょう。

 

契約締結後に書面上の問題が見つかった場合は、相手が日本人であれば、話し合いで解決できることもありますが、相手がベトナム人であれば、弁護士を介して交渉するのが無難です。また、契約書の原本がベトナム語でも、契約書面上に「裁判で問題を解決する場合は、翻訳した英語版を優先する」といった旨を記載しておくことも法的に可能です。

 

日本企業の場合は、取引相手がベトナム企業である限り、接待を受ける側に立つことの方が多いでしょう。たいていは居酒屋風の店でビールを飲み交わすことになります。特に礼儀作法はなく、グラスを傾けるたびに乾杯をするくらい。ベトナム人の多くはプライベートの話題も平気で質問してきますので、そのつもりで臨むといいでしょう。

 

逆に、こちらがベトナム企業を接待すると、ベトナム企業との対等な関係が崩れ、変な「上下関係」ができてしまうケースもあるようです。接待をした後、そのベトナム企業との間で、未回収が目立ってきたり、無用な呼び付けを受けたり、袖の下を要求されたり、という事例もあります。

 

ただし、日本の現地法人であれば、取引先は自ずと日系企業が多くなります。接待相手が日系企業のベトナム人担当者であれば、先方の要望がない限り、こちらもベトナム人従業員に接待を任せればいいでしょう。もし先方から日本人と会いたいと要望があった場合は、現地採用者にその役目を担ってもらうことが多いようです。

 

日本人相手に接待をするときは、事前にメールで招待状を送り、人数と役職を記入して返信してもらいましょう。人数は合わせる必要はありませんが、役職はある程度そろえるのがマナー。店は、大衆居酒屋からホテル内の高級レストランまでさまざま。相手の役職や人柄に合わせて選びましょう。ただし、いずれも予約は必須です。

 

大衆居酒屋は日本人うけはいいのですが、中には店舗運営がきちんとしていない店もあり、予約をしても受け付けられていないことがあるため、外国人オーナーの店が無難でしょう。インターネットや日本語フリーペーパーを参考に店を選ぶこともできます。

本連載は、2016年6月21日刊行の書籍『ベトナムとビジネスをするための鉄則55』から抜粋したものです。その後の社会情勢等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

ベトナムとビジネスをするための鉄則55

ベトナムとビジネスをするための鉄則55

古川 悠紀

アルク

中国に代わる生産拠点として従来から注目を集めるベトナム。経済成長を続ける人口9000万の若い国は市場としても将来性に富み、日本企業の進出が着実に増えています。本書では、ベトナム人やベトナム社会に関する基礎知識、仕事…

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