「宙に浮いた亀の甲羅」にたとえられる肩甲骨
肩甲骨は三角形の板状の骨であり、外側端にある盃状の関節窩と後方からブーメラン形状に伸びた肩峰、そして前方に太く短く突出して烏口突起からなる特殊な関節です。
肩甲骨の名前の由来は「肩に亀の甲羅を背負っている」ことから来ています。英語ではscapulaと呼び、ギリシャ語の「スカプトー(掘る)」が由来となっています。
肩甲骨は盃状の関節窩と上腕骨で「肩甲上腕関節」を作り、肩峰と鎖骨で「肩鎖関節」を作りますが、三角形の板状本体と接する肋骨とは関節を作りません。
骨性の制動はありませんが、前鋸筋と肩甲下筋が介在し、肩甲骨を胸郭に引き寄せています。したがって、体幹とは、小さな肩鎖関節としか繋がっていないため、「宙に浮いた亀の甲羅」ともいわれています。とはいえ、宙に浮いた肩甲骨では、腕の重みで落ちてしまいますよね。
「肩関節の〈困った亀〉を助けるぞ」…浦島太郎出現!?
そこで、肩甲骨を引き上げるために背側の筋肉が進化しました。上位頸椎から肩甲骨内側上位に「肩甲挙筋」、下位頸椎と上位胸椎から肩甲骨内側下位に「菱形筋」が深層に付着し、そして頭蓋骨下位と上位脊椎から肩甲骨全面を覆うように「僧帽筋」が浅層に発達して、肩甲骨が落ちないように引っ張り上げて助けています。なので、背側筋群は「亀を助けた浦島太郎」といえますね。
しかし、腕の重さによって頸と胸部の背筋は常に緊張しているため、中高年を中心に苦しむ、頸部痛、肩こり、五十肩の原因ともなります。
親亀(肩甲骨)が動けば、子亀(上腕骨)はもっと…
さらに肩鎖関節を支点に、脊椎背筋(特に僧帽筋)の力で肩甲骨が振れる(回旋)ことによって、腕は広い可動域を得ます。
上腕骨の挙上だけでは、腕は約90度までしかあがりませんが、鎖骨との連動によって土台の肩甲骨が外に回旋(外旋)することによって、上腕骨はバンザイができるようになります。
「親亀の上に子亀を乗せて、親亀こけたら…」と同じ理屈です。この理屈は、「片方の手で反対の肩を抑えると上腕骨が90度以上挙がらない」ことで実感できます。つまり、肩甲骨(親亀)が動くことによって上腕骨(子亀)は広い可動域を得て、スポーツを楽しめているワケですね!
しかし、広い可動域を得た代償として肩は不安定性と肩こり等の問題(玉手箱)を抱えるようになったのですが、これについての詳しい話は、また別の機会に。
★今日の教訓★
昔々、浦島太郎(背筋)に助けられた親亀(肩甲骨)は、子亀(上腕骨)と一緒に広い海(運動域)を泳ぎ回り、竜宮城であらゆるスポーツを楽しみました。帰ってきた親子亀は、浦島太郎へのお土産として、玉手箱(不安定性、肩こり)を渡しましたとさ!(浦島太郎物語現代版)
三上 浩
医療法人 医仁会
高松ひざ関節症専門クリニック 院長