本件訴訟における争点と裁判の経緯
◆事案の概要と主な争点
本件は、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)が音楽教室に著作権使用料を請求したのに対し、約250の音楽教室が原告となって、JASRACを被告とし、著作権使用料の支払義務がないことの確認を求めて訴訟を起こしたものです。
争点となったのは、著作権法22条の解釈です。
【著作権法22条(上演権及び演奏権)】
「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。」
この条文によれば、「公衆」に対し直接見せ、または聞かせることを目的とする上演・演奏は、著作権者が「専有」するものなので、著作権者以外の者が行う場合は、著作権料を支払わなければならないことになります。
そこで、問題となるのは、音楽教室における演奏が「公衆」に対し「直接見せ又は聞かせることを目的としている」といえるかということです。
◆裁判の経過
第一審の東京地裁では被告のJASRAC側の主張が採用され、原告の音楽教室側の全面敗訴となりました(東京地裁令和2年(2020年)2月28日判決)。
これに対し、第二審の知的財産高等裁判所は、教師の演奏については著作権使用料の支払義務を認めた一方で生徒の演奏については支払義務を否定しました(知財高裁令和3年(2021年)3月18日判決)。
そして、今回の最高裁判決は、第二審の結論を支持したものです(最高裁令和4年(2022年)10月24日判決)。
本件判決の論理構成
第二審および最高裁は、教師の演奏と、生徒の演奏を区別して論じています。
◆教師の演奏について
教師の演奏については、以下の理由により、「公衆」に対するものとしました。
・公衆とは「不特定または多数の者」を意味する
・音楽教室のレッスンは、受講契約を結べば誰でも受けられるので、生徒は「不特定の者」であり、「公衆」にあたる
なお、最高裁は教師の演奏については独自の判断を示しておらず、第二審判決の結論をそのまま支持しているといえます。
◆生徒の演奏について
生徒の演奏について、第二審判決は、音楽教室の受講契約に基づき、特定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるため、「公衆」に対するものとはいえないとしました。
JASRACはこれを受け、最高裁への上告理由のなかで、音楽教室が営利目的で課題曲を生徒に演奏させることによって経済的利益を得ていることから、生徒の演奏についても、著作物の利用主体は生徒ではなく音楽教室であると主張しました。
これに対し最高裁は、以下の理由を挙げてJASRACの主張を退け、第二審の判断を正当なものとして支持しました。
・生徒の演奏は演奏技術等の習得・向上のため任意かつ自主的に行われるものである
・音楽教室は生徒の演奏を補助するものにとどまる
・音楽教室が得る受講料は演奏技術等の指導の対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ではない
このように、本件判決は、音楽教室の教師の演奏については「公衆」に聞かせる目的のものとする一方、生徒の演奏については「公衆」に対するものではないという判断を示し、教師の演奏のみが著作権の使用料の対象であるとしたものです。