自然と芽生えることのない「自覚」は、努力して育む
地方の中小企業は業務を自社だけで完結させていることも多いため、一見地域に根づいているようでも実は本人たちには地域の一員だという自覚が足りていないこともしばしばです。特に下請け企業としてBtoBの業態で機械部品などを製造している場合、地域住民としての自覚はなかなか生まれません。
そもそも下請けとして受注をこなすという受け身の体質になっていると地域企業としての自覚がなくなってしまいます。注文をこなして稼げばいいのならどこに工場があっても同じことだからです。
視野に入るのは注文をくれる大手企業と製品を納める地元の工場だけで、それ以外のことには関心が向きません。
町内のお祭りに寄付をしたり、さまざまな会合に顔を出して交流することで地域とのつながりをつくっている地域密着型の中小企業もありますが、イベント時だけでなくもっと日常的に会社を地域に開くべきです。地域循環型経済を確立するためには地域の企業が地域の構成員として受け入れられていなければならないからです。
業態がBtoBであるかどうか、直接事業上の接点があるかどうかにかかわらず、あの会社は地域企業としてどんなことをやっているのか、何が得意なのかといった認知を得て、地域経済の一員として受け入れてもらわなければなりません。
その前提があれば地元企業から「機械の設計や製造を頼みたい」とか「メンテナンスをしてほしい」とか、「新しい生産ラインづくりの相談にのってほしい」という声もかかりやすくなります。
かつては敬遠されていた地域企業の教育アプローチ
さらに、これから地元を背負っていく若い人たちに対して地元で働くことの楽しさや社会人としてどういうことを考え、何を生きがいとして働いていけばいいのか、ものづくりの魅力はどこにあるのかといった社会教育、産業教育を行っていくことも地元企業としての役割だと思います。
それは将来自社で働いてもらうためにという採用活動ではありません。個々の会社としての利益ではなく若い人が地元でやりがいを感じながら働き、地元を支える一員になってほしいと考えるからです。
以前は企業が小中高生や大学生などに過度なアプローチをすることを良くないとする風潮がありました。学問は中立的でなければならない、民間企業は利益を上げるための集団であり教育になじまないといった感覚があったからです。
しかし企業は社会を構成する重要な存在であり、多くの人は企業に長く所属して人生を送ります。働くとは何か、ものづくりとは何か、人と力を合わせるとはどういうことか、人に学び教えるとはどういうことか、高め合うにはどういう心構えが必要か…こういったことは社会教育、産業教育のなかでしか学べないのです。
単に社会にはどんな仕事があるのかという実用知識を提供するのではありません。働くことについて広く深く考えるきっかけにしてほしいと思いました。
仮に学生であったとしても地域を支えるメンバーの一人として責任ある考え方や関わり方ができるようになり、地域循環型の経済のなかで重要な役割を果たせるようになると思います。こうしたことは社会人になってから学ぼうとしても遅いのです。
実は私の会社に来た新入社員を見ていてもこういうことを入社前に考える機会をもっていなかったのだと分かることがあります。自分の目標をしっかりもっていなかったり、ものづくりの魅力を知らないままであったりして、わずかな失敗や怒られたといったことを必要以上に気にして辞めてしまったりします。
子どもたちが小さな頃から地域のことを考えたり、働くことの意味や将来の自分の役割や生き方について考える機会を提供するのも地元企業の社会的な責任です。
島原 俊英
株式会社MFE HIMUKA 代表取締役社長
一般社団法人 日向地区中小企業支援機構 理事長