ラーメン屋の原価率は30%程度に抑えたい
ラーメン屋を安定的に経営するには、原価率を30%程度に抑えることが望ましいです。行列が常に絶えない店であれば、原価率が30%を上回っても経営は可能ではあります。ただし、行列が増えると一般的に人件費も増えます。原価率50%を上回った場合に店を続けるには、かなりの経営テクニックが求められます。
数年前に「俺のフレンチ」などの「俺の〇〇」シリーズの飲食店が、大きな話題を集めました。グループ店舗に共通しているのは高原価率を前提としたメニュー構成で、特に「俺のフレンチ」の原価率は60%ほどといわれています。
私も何度か行きました。ほかのフレンチレストランでは見たことのない行列と狭めの座席、高級食材を使ったもののリーズナブルなメニューが印象に残っています。味はかなりおいしく、コストパフォーマンスはとてもいいと感じました。
このしくみを真似して原価率60%のレストランを青森県に出したらどうなるでしょうか? おそらく、あっという間につぶれてしまうと思います。なぜなら、このモデルは行列による高回転率が保てなければ、継続することは難しいからです。
原価率30%と60%の差
先ほど例に出したラーメン屋で考えてみます。
来客数は月に1000人、客単価は1000円、月の売上は100万円、人件費は15万円、家賃や水道光熱費は20万円でした。この場合、原価率が30%ならば、
100万円-100万円×0.3(原価率)-15万円-20万円=35万円
となり、35万円が手元に残る計算でした。
原価率60%の場合は、手元に残るお金は次のようになります。
100万円-100万円×0.6(原価率)-15万円-20万円=5万円
売上から変動費(この場合は原価)を引いた1人あたりの限界利益は、原価率30%であれば700円、原価率60%であれば400円です。来客数が月1000人の場合であれば、1ヵ月の利益額の差は30万円になります。つまり、同じ水準の利益を確保するためには、もう30万円限界利益が増えればいいことになります。その際の計算式は、このようになります。
30万円÷400円=750人
よって、1000人に750人をプラスした1750人が来客すれば、35万円の利益を確保できるはずです。
1000円×1750人=175万円
175万円-175万円×0.6-15万円-20万円=35万円
となります。
ここから1日あたりの来客数を、25日営業の場合で考えてみます。月の来客数が1000人ならば、1日あたりの来客数は1000÷25=40人です。これは、ドラゴンラーメンの現実の数字に近いものです。
一方、1750人の場合は、1750÷25=70人の来客が必要になります。営業時間がランチタイムのみの11~14時(3時間営業)だとしたら、1時間あたり20人以上の来客が必要です。もちろん、店舗の規模や営業時間によって条件は変わりますが、かなり厳しい数字です。
誰に、何を、どのようにいくらで売るか――
八戸市の人口は現在、22万人ほどで、半径10キロに位置する周辺自治体の人口を含めても、30万人程度です。この規模の地方都市では、そもそも行列を作り続けるのは難しいでしょう。いくらおいしいから、コストパフォーマンスが高いからといって、同じ店に外食に行くのは、多くても週1回がいいところです。
東京近郊に住んでいたころ、人気ラーメン屋によく行っていました。中でも、通っていた大学の近くに「ラーメン二郎野猿街道店」があり、近隣の大学生を中心に大変な人気を集めていました。いつ行っても行列が絶えず、30分や1時間待っていました。首都圏の人気ラーメン屋は行列して待つのが当たり前なのです。
八戸にUターンして、地元の人気ラーメン屋にも行くようになりました。評判のよい店はどれも味のレベルが高く、価格も安く、アクセスも良好です。それでも、限定メニューなどの機会を除いて、行列ができることは多くありません。
首都圏と違うのは、単純に商圏人口です。店のレベルが大きく劣っていることはありません。
そのため、このような環境下においては、行列による高回転率が前提となる高原価率のビジネスモデルは成立しません。実際、「俺の」シリーズを見ても、ほとんどの店が東京の中心部にあります。
誰に、何を、どのようにいくらで売るか、目標は現実的なのか――。詳細な計画とシミュレーションが、短期廃業という大ケガを避けるために大切です。
石動 龍
石動総合会計法務事務所 代表
ドラゴンラーメン 店主