(※写真はイメージです/PIXTA)

学校生活を送る上で発達障害の子が困りがちなのはなぜか。その一因として、臨床経験30年以上の発達障害の専門家・本田秀夫医師は「学校の標準が狭すぎること」を挙げています。今の子供たちは標準的にやるべきことが多すぎるために、場面によっては発達障害の子がその標準に合わせられず、困りごとに繋がっている側面があるのです。本田秀夫医師の著書『学校の中の発達障害』(SBクリエイティブ)より、学校の「標準」をめぐって起こるトラブルの例と対処法を見ていきましょう。

【ケース】発達障害のある子が友達を叩いてしまった

■同級生から「できないこと」をからかわれ続け、我慢の限界に

学校の「標準」をめぐって起こるトラブルの例を一つ紹介します。みなさんは次のような困りごとが起きたら、どんな対応をしますか?

 

同級生とのケンカの例です。ある日、学校から家庭に「お子さんが友達を叩いてしまいました」という連絡が入ります。子ども同士でもめているうちに、わが子が相手の子に手を挙げてしまったとのことでした。相手はケガをして病院に行ったそうです。暴力を振るってケガをさせたということで、相手方に謝罪しなければなりません。

 

謝罪をするとともに、必要な対応を検討しなければならないわけですが、手を出したときの様子を子どもに聞いてみると、本人は「相手が悪い」と言います。「うまくできないことを以前から何度もからかわれていて、がまんできなくなった」「自分は悪くない」という話でした。この場合、からかわれたことと暴力を、どのように考えればよいでしょう? 親ができること、先生ができることをそれぞれ考えてみてください。

 

出所:本田秀夫著『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より
学校で友達を叩いてしまった子ども 出所:本田秀夫著『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より

 

家庭から相手に謝罪するのは当然ですが、暴力の原因となった発言については、家庭と学校、どちらが対応するのがよいでしょうか。

 

このようなケースでは、叩いてしまった側の家庭が「相手にも暴言があったから」ということで抗議をして、相手方から「暴力を振るった側が何を言っているんだ」と返答され、保護者間トラブルになることもあります。そのようなトラブルを防ぐために、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

親の対応:「謝罪」と「事実の確認」

■「からかわれたこと」と「叩いたこと」は分けて考える

親としては、まず相手に謝罪することが第一です。暴力を振るうという行為は、悪いことです。相手に悪いことをして、ケガを負わせたことを謝らなければなりません。それと同時に、同じトラブルを二度と起こさないように予防策を講じることも大切です。そのためには「どんな状況で相手を叩いたのか」を確認する必要があります。

 

叩いたときの様子を子どもに聞いてみると、中には「ちょっとした小競り合いで偶然、手や足が相手に当たってしまった」ということもあります。その場合には相手に謝罪し、今後は気をつけるということでよいでしょう。

 

それに対して、先ほどの例のように「うまくできないことを何度もからかわれた」といった理由がある場合には、「からかわれたこと」と「叩いたこと」を分けて考える必要が出てきます。相手が陰湿な意地悪を以前から何度も繰り返していたのであれば、その点にも対応しなければなりません。

 

本人の話を聞くだけではわからないこともあるので、学校の先生にも事情を聞くとよいでしょう。そのときは「誰が悪かったか」を尋ねるのではなく、「事実として何があったか」を聞いてください。事実を確認し、子どもが実際に不当な扱いを受けたことがわかったら、その点については学校や相手方と話し合う必要があります。

学校側の対応:「ご家庭でも注意して」とは言わない

■再発防止に必要なのは「何度も繰り返し反省させること」ではない

子ども同士のトラブルが起きてしまったら、学校側はトラブルの全体像を把握して、事実を整理しましょう。そして必要に応じて、親に連絡を取ります。

 

学校の先生は親にトラブルの報告をする際、「学校でもお子さんに注意しましたが、ご家庭でも注意してください」と伝えることがありますが、そのように子どもに何度も反省をうながすことは、あまり効果的ではありません。

 

子どもは、問題が起きたときにその場で注意されれば、「よくなかった」ということに気づきます。反省はそれで十分です。問題の再発を予防するために必要なのは、何度も繰り返し反省させることではありません。適切な行動を教えることや、問題の原因を取り除くことです。学校から親に連絡するときには、「ご家庭でも注意して」とは言わず、「こういうことがありました」と事実を話すにとどめてよいと思います。

協力してできること:「言葉の暴力」にどう対応するか

■「叩いたこと」だけが問題視され、話し合いが終わってしまう例は多いが…

家庭と学校で事実を確認していくと、トラブルの予防策として何をするべきかも見えてきます。子どもが「嫌なことをされて、叩いてしまった」ということであれば、そのようなときの適切な行動を教えましょう。嫌なことがあっても相手に暴力を振るうのではなく、言葉で「嫌だ」と伝えることを教えていってください。

 

それと同時に、「嫌なこと」を解決していくことも大切です。「何度もからかわれた」という原因があったのなら、からかってしまった子にも適切な行動を教えていく必要があります。家庭と学校で協力して、相手の親御さんとも話し合いをしたいところです。

 

ただ、暴力を振るってしまった側が、相手に対して「そちらにも原因がある」と指摘するのは簡単ではありません。親御さんが相手方と一対一で話し合いをするのは難しいと思います。担任の先生や、校長・教頭(副校長)などの管理職の先生も協力して、学校での出来事を確認するような形で話し合いを持つほうがよいと思います。

 

叩いた子、叩かれた子の双方に適切な行動を教えていくのは、簡単ではありませんが、とても重要なことでもあります。私がこれまでに見聞きしてきたトラブルでは、「とにかく暴力はいけない」とされ、叩いたことだけが問題視されて、話し合いが終わってしまった例が意外に多いのです。「標準」から少しはみ出したというだけのことで、相手から散々罵られ、本人がいたたまれなくなってやむを得ず手が出たというときに、手を出した子だけが厳しく注意され、相手のほうはおとがめなしということが、しばしばあるのです。

 

もちろん「叩いたことが悪い」というのは確かなので、それは指摘すべきです。しかし、だからと言って「言葉の暴力」が許されてよいわけではありません。「相手を傷つけるような発言は悪い」という話もするべきです。

 

話をしてみると、相手のお子さんの考えもわかってきます。例えば「自分はルールをいつも守っている。みんなも守っている。自分たちはがまんしてルールを守っているのに、あの子だけ違うことをするのはずるいと思った」といった話が出てくることがあります。じつは相手の子も困っていた、という場合もあるわけです。

 

 

ルールを見直すことで、どちらの子も活動しやすくなるということもあります。そのような話し合いをするために事実の確認が必要であり、また、家庭と学校で協力しながら、丁寧に対応する必要があるわけです。親にとっては気が重いかもしれませんが、子どもを守るためには話し合いが必要になることもあります。場合によっては、私たちのような専門家に協力を求めるのも一つの方法です。難しい問題に直面したときには、いろいろな人を頼りながら対応していきましょう。

 

 

本田 秀夫

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授

同附属病院子どものこころ診療部 部長

 

本連載は、本田秀夫氏の著書『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)から一部を抜粋し、再編集したものです。

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち

本田 秀夫

SBクリエイティブ

【「学校・学級選び」「友だち関係」「勉強」「登校しぶり」…子どもたちの困りごとをすべて網羅!】 発達障害の子は「多数派」「標準」「友達」に合わせなくてもいい――これは、「発達障害の子に世間一般の基準に合わせる…

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