(※写真はイメージです/PIXTA)

最近、「発達障害」という言葉が身近になってきました。しかし、言葉だけはよく聞くけれども、具体的にはよく理解していないという方も多いのではないでしょうか。本稿では、臨床経験30年以上の発達障害の専門家・本田秀夫医師の著書『学校の中の発達障害』(SBクリエイティブ)より、「発達障害の種類」を解説します。種類ごとの特性や、そこから生じやすい悩みや困りごとなども併せて見ていきましょう。

「発達障害」にはいくつかの種類がある

「発達障害」にはいくつかの種類があります。「自閉スペクトラム症」や「注意欠如・多動症」「学習障害」などの種類があり、それらをまとめて発達障害といいます。発達障害は、いくつかの障害の総称なのです。

 

ですから同じ発達障害でも、自閉スペクトラム症の特性がある場合と、注意欠如・多動症の特性がある場合では、発達のスタイルも、悩みや困りごとも異なります。それぞれの特性を理解しておくことが大切です。ここで各障害の特性を説明していきましょう。

 

なお、以下の内容は医学的な診断基準を解説したものではなく、発達障害の特性の概要をまとめたものです。発達障害を理解するための基礎知識としてお読みください。

 

■発達障害の分類:自閉スペクトラム症(ASD)

主な特性は「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」の2つです。子どもの学校生活ではそれらの特性によって、一人でいることを好む、会話がかみ合わないことが多い、特定の教科や活動に強い興味を持つ、行事などの予定や手順にこだわる、といった特徴が見られることがあります。特定の光や物音、においなどに敏感または鈍感になるという、感覚的な特徴が見られる子もいます。

 

自閉スペクトラム症の特性がある子は、ほかの子と感情を分かち合うことよりも、自分の好きなことや好きなやり方を追い求める傾向が強くなりがちです。そのため「マイペース」な印象になりやすく、集団の中で浮いてしまうこともあります。

 

■発達障害の分類:注意欠如・多動症(ADHD)

「不注意」「多動性・衝動性」という2つの特性があります。子どもの学校生活では、長時間座っているとソワソワしてくる、何かを思いつくとすぐに発言したがる、しょっちゅう忘れ物をする、机やロッカーの片づけが苦手、授業の時間ギリギリに着席することが多い、といった特徴が見られます。

 

注意欠如・多動症の特性がある子は「そそっかしい」という印象になりやすく、親や先生に何かと世話を焼かれていることが多いです。そのことに後ろめたさを感じている子もいますが、意外にあっけらかんとしている子もいます。

 

■発達障害の分類:学習障害(LD)

「読み・書き・計算が苦手」という特性があります。そのうちの一つが苦手な子もいれば、複数が苦手な子もいます。そのような特性があるため、学校生活では勉強が苦手になりがちです。ただ、「苦手」と言っても、それは一般的なやり方で読み書きや計算をするのが苦手というだけで、すべてのものごとを学ぶのが苦手なわけではありません。パソコンやタブレット機器などのツールを使って苦手な部分を補うと、十分に学べるようになる場合もあります。

発達の特性には「重複」と「強弱」がある

ここでは種類ごとの特性を分けて説明しましたが、これらの特性は単独で見られることもあれば、重複して見られることもあります【図表】。例えば「こだわり」と「不注意」が重複していて、スケジュールを細かく気にするわりには、約束を忘れることがあるという子もいます。

 

出所:本田秀夫著『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より
【図表】発達障害の種類 出所:本田秀夫著『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より

 

また、発達の特性には強弱があります。ADHDの特性があって忘れ物が多い子には、ランドセルを持たずに手ぶらで登校してしまうくらいに「不注意」が目立つ子もいれば、ほかの子に比べて忘れ物が多い程度の子もいます。

 

発達の特性には「重複」と「強弱」があり、子どもによって特性の現れ方や、それによって起こる困難は異なるということです。同じ「発達障害の子」でも一人ひとり発達の仕方は違うということを、知っておいていただきたいと思います。

 

なお、発達の特性があっても「ほかの子に比べれば目立つ程度」という子もいます。その中にはもともと特性が弱い子もいれば、親や先生のサポートによって苦手な部分が目立たずに済んでいるという子もいます。

発達の特性は、必ずしも「障害」ではない

発達の特性の現れ方は子どもによってさまざまですが、医学的には、発達の特性があり、環境や人間関係などのバランスの中で「生活上の支障」が出ている場合に、なんらかの発達障害と診断することになっています。発達障害は診断名ではなく分類名であり、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症などが診断名です。

 

発達の特性による影響が「ほかの子に比べれば目立つ程度」であり、家庭生活や学校生活に特に支障が出ていなければ、発達障害の診断はされない場合もあります。

 

このことからもわかる通り、発達の特性は、必ずしも困りごとを生み出すものではありません。子どもに発達の特性があり、環境や人間関係との相性が悪い場合に、その子と周囲の環境との間に問題が生じます。環境や人間関係を調整することによって、問題を未然に防げるケースもあるわけです。

発達障害は少数派の「種族」のようなもの

私は発達障害を障害というよりは、少数派の「種族」のようなものだと考えています。

 

 

発達障害の子どもたちに、ほかの多くの子にはない「特性」があることは確かです。しかしそれは必ずしも「障害」となるものではなく、その子に特有の「発達スタイル」のようなものです。私は、それは、何かが「できない」というよりは、何かをするときに「大多数の子どもたちとは違うやり方をする」ということだと考えています。

 

例えば、自閉スペクトラム症の子が「一人でいることを好む」というのは、「みんなと一緒にいられない」というよりは、本当に一人でいるのが好きな場合も多いのです。そのことは以前に、拙著『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SB新書)で、「選好性」の違いだと書きました。発達障害の子どもたちは、ほかの大多数の子どもたちとは、志向が違うだけなのだと思います。

 

そう考えると、発達の特性は必ずしも短所になるわけではなく、裏を返せば長所にもなり得ることに気づきます。例えば「一人でいることを好む」ことは、集団の中では「自分勝手」と言われるかもしれませんが、裏返せば「独立心がある」ということであり、「人に流されずに行動する強さ」があるとも言えます。

 

<まとめ>

発達障害は必ずしも困りごとになるとは限らないもの。

環境や人間関係によっては、生活に支障が出ない場合もある!

 

 

本田 秀夫

精神科医・医学博士

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授

同附属病院子どものこころ診療部 部長

 

 

※本連載は、本田秀夫氏の著書『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち

学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち

本田 秀夫

SBクリエイティブ

【「学校・学級選び」「友だち関係」「勉強」「登校しぶり」…子どもたちの困りごとをすべて網羅!】 発達障害の子は「多数派」「標準」「友達」に合わせなくてもいい――これは、「発達障害の子に世間一般の基準に合わせる…

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