「実家を頼む」との父の遺言を守り、実家を大事に管理してきたタレントの松本明子氏でしたが、ついに「実家じまい」を決意します。そこでまず、空き家の売り手と買い手を結ぶ「空き家バンク」に登録し、買い手を探しはじめた松本氏。しかし、空き家バンクの担当者から「厳しい現実」を突きつけられるのでした。

購入希望者は現れるも…希望額には遠く及ばない

空き家バンクに登録して間もなく、購入希望者が現われました。そんなにすぐに買い手が現われるとは思っていなかったので嬉しい驚きでした。

 

でも、購入希望額が350万円と聞いてがっかり。地元の不動産屋さんの査定よりは高い値段でしたが、こちらの希望額とは隔たりが大きく、丁重にお断りしました。

 

それからしばらくして2件目の照会がありました。今度こそと思いましたが、購入希望額はさらに低い250万円。それ以上は無理というのでこれまた交渉は決裂です。「何年もかかりますよ」と言った市の担当者さんの言葉が心に重くのしかかってきます。

 

やっぱり売却希望額が高すぎたのかな……、値下げしたほうがいいんだろうか。でも、 そうすると、リフォーム代の全額回収はできなくなってしまう。うーん、どうしよう。

 

そんなことをあれこれ考えていたら、今度は借りたいという人が現われました。賃貸であれば、実家を手放さないで済みます。希望額の半値以下で売るくらいなら、貸すのもありかな、と思ったのです。でも、条件が悪すぎました。「月2万円なら」というのです。 月5、6万円なら妥協してもいいと思っていたのですが、さすがに2万円では……。結局、この話もお断りしました。

「30年は住むからね」…買い手の言葉に苦労も報われた

これは長期戦かな……。 そう覚悟を決めて待つこと約1カ月。空き家バンクに登録してから3カ月ほど経過したときでした。高齢のご夫婦から購入の問い合わせが入りました。ともに高松のご出身で、長く関西で暮らしてきたけれど、老後はUターンして故郷で過ごしたい、そのための家を探している、とのことでした。

 

それで実際に実家を見ていただいたら、とてもきれいで設備も新しい、これならすぐに住める、と大変気に入ってくださり、なんと、こちらの希望額で買っていただけることになったのです。2017年11月のことです。

 

高松の郊外で空き家をずいぶん探したけれど、こんなにいい物件は初めてだとおっしゃって。結果的には、リフォームしていたのと、宮大工さんの建てた総檜造りで、建物がとてもしっかりしている、というのも気に入っていただけた理由だったようです。

 

売買契約が済んだときは、長年の苦労から解放され、これでやっと肩の荷が下りたと思いました。と同時に、「頼む」と言われた実家を売却してしまい、やはり父に申し訳ない という気持ちもありました。でも、ものは考えようです。

 

実家の管理をいい加減にしていたら、更地にしないと売れなかったかもしれない。そうしたら父の城は解体され、消えてなくなっていたはずです。父の思いを受け止め、大事に空き家を維持してきたからこそ、そのまま住んでいただけるご夫婦にも巡り会えた。人手に渡っても、家は残すことができたわけです。

 

実家を引き渡すとき、ご夫婦はこう言ってくださいました。

 

「この家に少なくとも30年は住むからね」


この言葉を聞けば、両親も喜んでくれるんじゃないかな、そう思いました。 翌2018年1月、「爆報! THEフライデー」で私の実家じまいの解決編が放送され ました。過去の経緯を振り返り、売却に至るまでを追いかけたもので、こちらの反響もすごかった。

 

空き家バンクのことをずいぶんいろいろな人から聞かれました。雑誌の取材も受けました。空き家の実家を抱えている人が多いんだなと驚きました。

 

空き家問題は誰にでも起こり得ること。他人事ではない……。  

 

番組の反響の大きさに、これは社会問題なのだと、改めて思いました。

 

 

松本 明子

タレント/女優

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※本連載は、松本明子氏の著書『実家じまい終わらせました! 大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

実家じまい終わらせました! 大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方

実家じまい終わらせました! 大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方

松本 明子

祥伝社

数十年前に建てたマイホーム。現在は子が独立し、故郷に親御さんだけが住み続けているという方がほとんどなのではないでしょうか。ゆくゆくは実家に住む人が誰もいなくなってしまうのは予想できるけれど、日々の忙しい生活でと…

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