緊迫のウクライナ情勢…ロシアへの「中立的立場」を崩さぬ中国が国際社会に及ぼす影響

緊迫のウクライナ情勢…ロシアへの「中立的立場」を崩さぬ中国が国際社会に及ぼす影響

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。中国の当局、官製メディア、専門家はみな一貫して「侵略(入侵)」とは言わず、「ロシアとウクライナの衝突」「ウクライナ危機」「ロシアの軍事行動」といった表現を使用して「中立」の立場を強調し、対外的に曖昧な態度を示し続けている。ウクライナ問題は中国、中ロ関係、ひいては国際社会秩序にどのような影響を及ぼすのか。実情を探る。

◆直接投資・証券投資

中ロ間の直接投資(FDI)は貿易に比べると、あまり活発でない。中国の対外FDIの主な投資先は2020年末残高2.58兆ドルのうち、香港56%、ケイマン18%、バージン諸島6%で8割を占め(ただしこれら、特に香港の数値には、中国本土に戻って外資企業として優遇を受けるいわゆる迂回投資がかなり含まれている)、その他米国3%、シンガポール2%など(中国商務部対外直接統計公報)。

 

ロシアへのFDIはフローベースで2015年29.6億ドルとピークを打った後、20年5.7億ドル、残高では20年末実績121億ドル、21年末は128億ドル程度だった見込みで、対外FDI全体の0.4~0.5%に止まる。地域的にはロシア極東地域への投資が多く、同地域への外国からの投資の90%以上は中国という。

 

投資分野は同地域を中心に、エネルギー関係、農林牧畜・漁業分野が主だが、自動車、家電、食品加工にも中国の資金が入っており、また投資形態は従来のグリーンフィールド投資から、買収や基金設立に移りつつある(2022年9月7日付環球時報)。

 

他方、ロシアの対中FDIは微少のため、中国商務部外資統計では「その他」の項目に含まれ、具体的数値は明らかでない。

 

(出所)中国商務部対外直接投資公報
[図表4]中国対ロ直接投資(業種別フロー、百万ドル) (出所)中国商務部対外直接投資公報

 

 

(出所)中国商務部対外直接投資公報
[図表5]中国対ロ直接投資(業種別累計、百万ドル) (出所)中国商務部対外直接投資公報

 

中国の対外証券投資は香港、米国、タックスヘイブン地域で8割以上。投資主体は非銀行金融機関、非金融部門、銀行で、各々2021年末投資残高9797億ドルの40%、36%、24%を保有している。対ロ証券投資は2021年末残高6.2億ドル、全体の0.06%にすぎない。その7割弱が株式で、これは他国・地域と変わらない。

 

(出所)中国国家外貨管理局、「俄乌冲突对中国的影响,中俄经贸关系现状(ロシアとウクライナの衝突が中国に及ぼす影響、中ロ経済貿易関係の現状)」CEIC Insights Report March 3 2022
[図表6]対外証券投資(2021年末) (出所)中国国家外貨管理局、「俄乌冲突对中国的影响,中俄经贸关系现状(ロシアとウクライナの衝突が中国に及ぼす影響、中ロ経済貿易関係の現状)」
CEIC Insights Report March 3 2022

 

◆2022年に入ってからの動向

2022年1~9月の中ロ貿易は1361億ドル、前年比32.5%増。特に輸入が838億ドル、51.6%増で、輸入全体に占めるシェアも4%に上昇。他方、輸出は第二四半期大きく落ち込んだ影響で(前年同期比▼17.4%)、522億ドル、10.3%増に止まっている。

 

中国官製メディアは、ウクライナ情勢にもかかわらず、対ロ貿易は順調であると強調しているが、中国企業が欧米の2次制裁を受けることを懸念して、対ロ輸出を控えた可能性があり、また中国は貿易を通じてロシアを助けているとの欧米の印象を多少とも和らげるため、輸出を抑えようとする中国当局の意図も感じられる。ただ、7~9月は何れも前年同月比20%以上の増加に転じており、今後の動向が注目される。

 

ロシア経済のクリミア併合後の2015年の状況をみると、欧米の制裁で▼1.97%とマイナス成長になって輸入は落ち込み、中国の対ロ輸出も大幅に減少した(特に機械電子品2014年158億ドル→15年104億ドル)。中期的には、今回も対ロ輸出低迷が続く可能性がある。英経済誌エコノミストは2022年ロシア経済の成長率が▼10%に落ち込むとみている(5月時点予測)。

 

対ロ輸入の面では、ウクライナ侵攻以前からすでに中ロ間でエネルギー協力強化の動きがある。欧米が制裁措置の一環でエネルギーの対ロ輸入を一部禁止したことから、協力関係がさらに強化される可能性がある。

 

原油、石炭、天然ガスとも中国の輸入量は国内生産増加と感染増による景気悪化という需給両面の要因から前年比減少しているが(1~9月の生産が各々前年比3.0%、11.2%、5.4%の増加に対し、輸入量は▼4.3%、▼12.7%、▼9.5%)、ドル建て輸入価格上昇で金額ベースでは同期間、各々47.0%、43.3%、43.9%の大幅増加。

 

ロシアからの原油、石炭の輸入量シェアはいずれも上昇(各々2021年15.5%→22年1~7月16.7%、同18%→23%)、特に5、6、7月の原油輸入量は各々前年比55%、9.5%、7.6%の増加で、3ヵ月連続サウジアラビアを抜いて最大。

 

天然ガスパイプライン、LNGの輸入量も上期63%、29%の大幅増加で、LNGは米国とインドネシアを抜き、ロシアが第4位の輸入先になり、この結果、天然ガス輸入に占めるロシアのシェアは2015年2%から1~7月3.9%へと上昇している。

 

ロシアは中ロ間も含め、貿易決済通貨としてドル以外の使用、中国は人民元国際化を進めており、対ドル依存からの脱却という点で中ロの政策方向は一致している。

 

2022年北京オリンピックに合わせプーチン氏が訪中した際に締結された天然ガス長期契約(向こう30年、中国はロシアから年間480億㎥の供給を受けられるとした)には、わざわざ決済通貨にユーロを使用する旨の項目を挿入している。ロシアは制裁でSWIFTから排除されて以降、原油や石炭の決済も人民元やルーブルに変えようとしている。

 

中国の対ロFDIについては、欧米による2次制裁も懸念してか、上期実績はなかったもようである。

 

次回の記事は、「中国・ウクライナ関係、一帯一路への影響」について解説する。

 

 

金森 俊樹

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