英ポンド急落 ~英国金融市場の混乱は世界に波及するか?【ストラテジストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●トラス新政権の大規模な減税策と国債増発計画を受け、英国の金融市場ではトリプル安が進行。

●減税などで年2.5%の成長を目指し、成長による税収増で財政再建を図るとするも、問題も多い。

●欧米市場への直接的な影響は把握しにくいが、英政府の対応次第では市場心理の悪化要因に。

トラス新政権の大規模な減税策と国債増発計画を受け、英国の金融市場ではトリプル安が進行

先週来、英国の通貨ポンドが急落し、対主要通貨でほぼ全面安の展開となっています。9月26日には、対ドルで1ポンド=1.0350ドル水準まで下落し、1972年の変動相場制移行後の最安値をつけました(図表1)。

 

(注)データは2022年8月1日から9月27日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]ポンドと英国債利回りの推移 (注)データは2022年8月1日から9月27日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

こうしたなか、債券市場では英国債の利回りが急騰(価格は急落)しており、9月27日には10年国債利回りが一時4.53%台まで上昇したほか、30年国債利回りも一時5%台に乗せ、2002年以来の高水準に達しました。

 

また、FTSE100種総合株価指数も先週から下げ足を早めており、3月7日につけた終値ベースでの年初来安値に近づきつつあります。このように、英国金融市場では、通貨安、債券安、株安の「トリプル安」が進んでいますが、きっかけは、トラス新政権が9月23日に打ち出した大規模な減税策と国債の増発計画でした。これにより、英国の財政悪化懸念が、市場参加者の間で急速に強まりました。

減税などで年2.5%の成長を目指し、成長による税収増で財政再建を図るとするも、問題も多い

トラス新政権の主な政策は図表2の通りです。

 

(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]トラス新政権の主な政策 (出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

政府の目的は、高額所得者の減税、規制緩和を通じた成長促進、光熱費凍結によるインフレ抑制などであり、年2.5%の成長を目指し、成長による税収増で財政再建を実現するとしています。なお、今回の減税規模は、政策効果がすべて出る26年度には450億ポンドとなる見通しで、1972年以来の大型減税となります。

 

一方、これらの政策を実行するにあたり、23年度の国債発行額は1,940億ポンド(4月時点の予想は1,310億ポンド)に拡大するとみられます。ただ、改めて図表2をみると、いくつか問題点も浮かび上がります。エネルギー対策は、今後、ガス価格が高騰すれば、政府の負担が増えることになり、規制緩和については、欧州連合(EU)を離脱している現状、短期間で十分な資本や労働力の供給を得ることは、難しいように思われます。

欧米市場への直接的な影響は把握しにくいが、英政府の対応次第では市場心理の悪化要因に

資本や労働力の供給が不十分なまま、大規模な減税を実施しても、成長による税収増は期待できず、財政赤字が拡大する公算は大きいとみています。財政赤字拡大が経常赤字の拡大につながれば、通貨安の進行やインフレ圧力の高まりが予想されます。弊社は、英国財政の信任回復には、①英国政府が財政規律へのコミットを強めること、②イングランド銀行(BOE、中央銀行)が利上げペースを加速すること、が必要と考えています。

 

主要国への影響を考えた場合、米国やユーロ圏では、インフレ抑制のための利上げ継続観測から、すでに国債利回りは上昇、株価は下落傾向にあったため、英国の政策ショックの直接的な影響は把握しにくい状況です。ただ、今後の英国政府の対応次第では、市場心理の悪化要因となる恐れもあります。なお、英国政府は11月23日に財政見通しと財政のルールを発表する予定ですが、その前にBOEが緊急利上げに動くことも想定されます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『英ポンド急落 ~英国金融市場の混乱は世界に波及するか?【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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    三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

    旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
    現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
    著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
    CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

    著者紹介

    三井住友DSアセットマネジメントは、運用や調査経験豊富なプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの情報発信を行っています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、年間で約800本の金融市場・経済レポートの発行の他、YouTube等の動画、Twitterでの情報発信を行っています。

    著者紹介

    連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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