「106万円の壁」は2022年社会保険制度改定でさらに大きな影響が
さらに、「106万円の壁」については、2020年10月1日以降の社会保険料制度の改定もあいまって、より多くの人に影響が及ぶことになります。
すなわち、これまで「106万円の壁」の対象となっていたのは、「従業員数500人超」の企業のみでした。
しかし、2022年10月1日から、対象となる企業の範囲が「従業員数100人超」の企業にまで拡大されます。また、雇用期間の見込みが「1年以上」に限られていたのが、「2ヵ月以上」へと短縮されます。
これにより、従来「130万円の壁」の範囲内で働いていた人は、最低賃金の上昇に加え、「106万円の壁」の影響も受けることになります。
なお、2024年10月からは、対象がさらに「従業員数50人超」の企業にまで拡大されることが決まっています。
「壁」の制度自体が世の中の実情に合っていない?
このように、最低賃金が大幅に上昇してきている実態があるにもかかわらず、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」の抜本的な見直しが加えられていないというのは、きわめていびつな状態といわざるを得ません。
すなわち、従来「壁」を気にして扶養の範囲内で働いていた人にとっては、単純計算すると、過去20年間で労働時間を約3分の2にまで短縮しなければならなかったということです。
この状態に対し、何らかの解決策を講じなければならないことは明らかです。
一つの方向性として、「最低賃金の上昇に合わせて『壁』を引き上げる」ということが考えられます。
しかし、問題はそう単純ではありません。
すなわち、「壁」を引き上げると、「壁」の範囲内で働く人と、「壁」を超えて働いて所得税あるいは社会保険料を負担する人とのあいだの不公平の問題がさらに深刻化する可能性があります。
それに加え、税法・社会保険法における扶養の制度のあり方が、実質的に女性の社会進出を妨げてきたのではないかという指摘もかなり以前からされてきています。
たとえば、2014年3月19日の「第1回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議」において、当時の安倍晋三首相が、現行制度について「女性の就労拡大を抑制する効果をもたらしている現在の税・社会保障制度の見直し及び働き方に中立的な制度について検討を行ってもらいたい」と発言しています(同会議議事要旨P.13参照)。
また、たとえば、所得税等の配偶者控除の制度趣旨は、租税法の教科書等では古くから「内助の功」で説明されることが多かったものです。
しかし、いまどき「内助の功」という考え方にどれほどの合理性があるでしょうか。その発想自体が前時代的だという指摘も考えられます。
しかも、かりに「内助の功」という考え方を認めるとしても、より多くのお金を稼ぐ方が内助の功が大きいという見方もあります。現に、「内助の功」の語源となった戦国時代の山内一豊の妻のエピソードは、夫が名馬を購入できるだけの大金を用立てたことでした。
さらに、「老後2,000万円問題」がいわれる現在、最低賃金も物価も上昇傾向にあるにもかかわらず、「壁」に気を取られて所得獲得活動をセーブしていると、老後資金の積み立て等に支障をきたす可能性すらあります。これでは、国が国民に対し落とし穴を掘っているに等しいともいえます。
その意味で、「壁」という制度のあり方自体の合理性を吟味し、制度を抜本的に見直すべき時が来ているといえます。
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