みるべき要因は「金利差」だけにあらず
それでは、いよいよ日本独自の「円安」要因を探ってみることにしましょう。昨今の、円安ドル高が進行している主因はやはり金利差です。
一方の通貨の(短期)金利がゼロまたはマイナス金利であり、もう片方の通貨に投資妙味のある金利がついていれば、為替リスクを取ってでも、金利が欲しい向きが低金利通貨を売って高金利通貨を買い、これを預金などにして運用する「キャリートレード」という取引手法が脚光を浴びることになります。
日米で見ると、その金融政策の明確であればあるほど、安心してキャリートレードを行うことができ、相場の世界ではごく自然に円売りが円売りを呼ぶという現象が起こります。
しかし、もし、ドル高円安の要因がキャリートレードによるものだけだとすると、不都合が起こります。たとえば、フランスフラン。この通貨はゼロ金利をも超越した、マイナス金利を実に7年以上も継続しているにもかかわらず、スイスフランは対ドルで1割程度の変動率で安定推移しているのです。
このことから、いま注目されている金利差という材料だけが為替を動かしているわけではないことが見て取れます。そしてこの金利差による「ドル高」要因の賞味期限は、ズバリ、インフレが沈静化した時です。
利上げの幅やペースがどうなるか? ではなく、いつインフレが沈静化するか、その時期を見極めることが大切です。
真に注目すべきはニッポンの経常収支と貿易収支
一体、どこに注目すれば本質を見極めることができるのでしょうか?私は、貿易収支を含む経常収支に焦点を当てたいと思います。
元来、日本は加工貿易国【株式会社ニッポン】として史上類を見ない経済成長を遂げてきた国です。その構造はとても単純で、材料を輸入してよい製品を作り、それをアメリカに売って利益を得る。
アメリカドルで得た利益は、仕入やお給料に充てるために必ず円転しなければなりませんから、必然的に円高になります。
ところが、財務省統計からも見て取れる通り、現在は真逆の状態。【株式会社ニッポン】の工場は、急速に回復したアメリカの旺盛な需要についていけていません。さらには、いざものづくりを再開しようにも、原材料を「ゼロコロナ政策真っ最中」の中国に依存し過ぎているため、材料の調達もままならず、そこに来て円安による輸入インフレだけが先行している状態で、結果、日本の経常収支は8年ぶりの低水準に甘んじる結果となっているのです。
しかも肝心かなめの貿易収支は構造的な赤字が続いていることからも、その深刻度はかなりなものとなっています。
コロナ後の立ち上がりでアメリカに出遅れた日本の姿が「円安」要因として顕在化しているのだとすると、むしろこの「円安」要因の賞味期限は年単位で長持ちすることになるのではないでしょうか?
浅井聡
株式会社オープンハウス
ウェルス・マネジメント事業部チーフストラテジスト