お金の取り扱い方をゼロベース思考で考えなおす時代に
山本 アメリカを見ると、電気自動車企業「テスラ」や宇宙開発企業「スペースX」を率いる世界一の富豪のイーロン・マスクは暗号通貨好きとして知られています。彼のようにビットコインやブロックチェーンに熱狂している人は、近年明らかに増加していますよね。そうした人々は現実世界ではまだ実現していない「理想の世界」を思い描いているように見えます。彼らが共有する世界像とはどういうものでしょうか?
ジェリー 一番のキーワードは、「非中央集権型」でしょうか。加えて、自由や自立といった概念も重要です。政府や中央銀行、企業などが介在することで、厳格な法律や煩雑な手続きや手数料などが存在してきました。本当の意味での自由があまりなかったわけです。
山本 これまでは中央集権型だったので、ある種の介入があったということですね。ユーザー同士で信頼性を担保したり直接取り引きしたりできるようになる世界がすでにやってきていると。
イーロン・マスクは、テスラの電気自動車をビットコインやドージコイン(インターネット・ミーム(冗談)である「ドージ(Doge)」の柴犬をモチーフとした暗号資産)で購入できるようにするといった動きを見せたり、ビットコインを会社の資産として購入したりすることもありましたね。
ジェリー 彼は大手オンライン決済サービス「ペイパル」出身なので、フィンテック(FinanceとTechnologyを掛け合わせた造語)のバックグラウンドがあります。加えて、政府や規制や固定観念を良く思っていません。要するに、自由のために革命を起こしたい人なので、ブロックチェーンの理念に深く共鳴しているのだと思います。
お金の三つの役割をおさらい
山本 世界的にお金が変わりつつある。暗号資産に熱狂している人が増えている。これは何を意味しているのでしょうか。お金とは何か、なぜこの形のお金を使っているのか、お金はどう変わっていくのか──ここへきて、お金というものが根底から問い直されつつあります。そもそもお金の役割とはなんでしょうか?
ジェリー 大前提として、お金には三つの役割があると言われています。一つ目は「交換・取引手段」、二つ目は「会計や計算の単位」、最後に「価値の保存手段」です。
山本 「交換・取引手段」というのはイメージしやすいですね。普段の生活でお金を何かと交換したり取り引きしたりするのに使うことは多くあると思います。ただ、我々が使っているお金は、そもそも硬貨である必要も中央銀行が発行する紙幣である必要もありません。
日本では1882年に日本銀行が設立され、中央銀行の歴史は140年くらいしかないのです。流通貨幣については708年に和同開珎(わどうかいちん)が作られ、1300年ほどの歴史があります。
国家や中央銀行の保証・信用があって成立するのが当たり前だと思っている人も多いかもしれませんが、実はそうではないのです。暗号資産が突きつける根源的な問いの一つはここにあります。
しかし、果たしてそれが未来を含めてずっとベストな形なのかと問われるとそうではありません。常に改善の余地があり続けます。
これだけテクノロジーが進んだ世界でまだ同じものを使っていますが、いまの時代に最適なお金の形とは何か、という問いが出発点になりますね。そうした中で、ブロックチェーンを使った分散型のシステムが生まれている、という現実があるということです。
ジェリー そのとおりです。「交換・取引手段」について暗号資産は決済が早い、手数料が安い、匿名でできる、誰も妨害できない、といったいくつかのメリットがあります。そのため、これからますます様々な暗号資産での決済は多くなると思います。
山本 法定通貨にも「すでに流通量が豊富にある」とか「間違って払ったときに払い戻せる」といったメリットはあります。法定通貨にも暗号資産にもメリットとデメリットがあるので、相手や状況によって交換手段を選ぶことができる、選択肢が豊かになるほうがいいと思います。
山本 康正
パシフィックリーグマーケティング株式会社 テクノロジーアドバイザー
ジェリー・チー
データサイエンティスト