「20大を控えて、みかけだけよくしようとしても…」
こうした当局の「保交楼」指示で事態が改善しつつあるとされているが(例えば、人民銀行が主管する金融時報7月16日)、8月に至り、今度は一部開発業者が人を集めて工事が再開したように見せかける(表演式復工)動きが出始め、中国で昔から言われている「上に政策あれば、下には対策あり(上有政策、下有対策)」の典型的現象、また度重なるゼロコロナ政策の影響で多くの農民工が農村に戻って、都市部は労働力不足で工事再開は難しいこと、とりあえず20大を控えて、みかけだけよくしようとしても、政治の季節が終わったあとに、より深刻なことになるだけ、などの声がある。
中国では歴史的に不動産業発展の名目で、開発業者が住宅を工事完了前に売却し支払いを求める「期房」が定着している。制度的には売却代金は開発業者のエスクロー勘定に入り工事費用にのみ充当されることになっているが、他の目的に流用(挪用)されているケースが多い(図表3)。
「期房」から、工事が完了している現存住宅を売却・購入する「現房」に移行すべきとの議論が再燃している(図表4)。
欧米諸機関、中国の通年成長率予測を大幅下方修正
欧米諸機関は5月以降、度々中国の通年成長率予測を大幅に下方修正。8月下旬時点、スタンダードチャータードは4.1%→3.3%、ゴールドマンサックスは4.1%→3.3%へと下方修正。中国シンクタンクからも目標未達の見通しが出されている。
社会科学院系列の国家金融発展実験室(NIFD)は8月初に発表したNIFD季報で、感染状況が落ち着いているという前提の下で、下期成長率は5.7%前後、通年4.2%前後と予想し、下期は「なお潜在成長率の5.5%前後に向かうことが期待できる」との言い回しをしている。これら予測は、統計を取り始めた1961年以降で最も深刻と言われる今夏の四川や重慶など南部、内陸部での猛暑、それに伴う深刻な渇水、水力発電不足、8月から9月にかけ四川省成都や広東省深圳など各地で強化、あるいは延長されているゼロコロナ政策で、さらに下方修正される可能性が高い。
ただゼロコロナ政策については、習近平氏が9月中旬、パンデミック発生後初めてとなる外遊(上海協力機構首脳会議出席のため、カザフスタン、ウズベキスタンを訪問)に踏み切ったことで、ゼロコロナ政策に変化があるかもしれない(つまり、外遊の政治外交的意味は別にして、しばらく外遊をしなかったのは、指導部は厳しいゼロコロナ政策の例外扱いかという人々の反発を考慮していた側面があるとすれば、外遊解禁はゼロコロナ政策緩和のシグナルとも解釈できる)。
国家統計局発表のGDP名目金額、実質成長率から試算すると以下の通り、中国当局の年成長率目標5.5%前後達成に必要な下期実質成長率は8.1%。
<年成長率目標達成に必要な下期成長率>
56.26兆元(2022年上期名目GDP実績) ÷ 53.22兆元(同2021年)
= 105.7%(2022年上期名目成長率実績)
5.7% - 2.5%(2022年上期実質成長率実績)
= 3.2%(いわゆるGDPデフレータに相当)
上期GDPデフレータ3.2%が下期も続くと仮定すると、
5.5%(2022年実質成長率目標) + 3.2%
= 8.7%(目標達成に必要な2022年名目成長率)
114.37兆元(2021年名目GDP実績) × 1.087
= 124.32兆元(同2022年名目GDP)
124.32兆元 - 56.26兆元
= 68.06兆元(同2022年下期名目GDP)
68.06兆元 ÷ 61.15兆元(2021年下期名目GDP実績)
= 111.3%(同2022年下期名目成長率)
11.3% - 3.2%
= 8.1%(同2022年下期実質成長率)
後編では、年目標成長率達成が厳しくなっている状況を、当局がどのようにみているかを探る。
金森 俊樹
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