(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は、病気をきっかけに自分の相続について考えるようになりました。男性の相続人は、再婚した妻と、前妻との間にもうけた娘の2人。現在の妻に全財産を渡したいのですが、娘に「遺留分侵害額請求権」を行使されると、妻は自宅を手放すことになります。あれこれと対策を考えますが…。相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

贈与税は、特例を用いてもかなり高額に…

「なるほど。正直私もいつまで生きるか分かりませんが、長生きすることに賭けて生前贈与をするのも1つの手ですね。ちなみに、贈与税はどのくらいかかるのでしょう?」

 

Aさんからはこのような意見と質問が出ました。

 

贈与税は、生前贈与があった場合に、財産を貰った人に対してかかる税金です。暦年贈与(毎年1月1日から12月31日までに行われた贈与)には基礎控除110万円があり、年間の贈与から110万円を差し引いた金額に、贈与税率を乗じて贈与税を計算します。通常、3,000万円超の贈与の場合、贈与税率は55%、控除額は400万円です。

 

つまり、およそ贈与した金額の半額程度は贈与税を支払わなければなりません。

 

ただし、婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で居住用の不動産やその購入資金を贈与する場合には、「贈与税の配偶者控除の特例」(「おしどり贈与」や「夫婦間贈与の特例」とも呼ばれます)を適用することができます。

 

この特例を用いると、贈与税は、

 

(贈与された不動産の評価額 - 配偶者控除〈最大2,000万円〉 - 暦年贈与の基礎控除額110万円) × 贈与税の税率

 

により算出されます。

 

今回の場合、Aさんの妻が支払う贈与税は、

 

(6000万円 - 2000万円 - 110万円) × 55% - 400万円

= 1739万5000円

 

となり、特例を用いても贈与税はかなり高額であることが分かりました。

その他の対策…生命保険の活用は?

「生前贈与は厳しいですね…。そのほかに、遺留分対策の方法はないでしょうか?」

 

遺留分対策としてよく用いられるものに、生命保険の活用があります。

 

これは、生命保険の死亡保険金の受取人を相続人にするというものです。死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の固有財産として扱われるので、その分相続財産を減らすことができます(ただし、遺産の総額に比べて、死亡保険金の金額が著しく大きいなど、相続人間に大きな不均衡が生じる場合には、死亡保険金も特別受益に準じて持戻しの対象となり、遺留分算定の対象となる場合がありますので、注意が必要です)。この方法は、財産のうち、特に預貯金が多い場合に有効です。

 

Aさんが、預貯金のうち1,000万円を生命保険に回したとすると、相続財産は7,000万円、娘の遺留分は1,750万円となります。するとやはり、不動産を手放さなければ娘に遺留分侵害額を支払えないという結果になってしまいました。

腹を割って娘に話し、あとは信じるしか…

そこでAさんは、思い切って正直に娘に話をしてみることにしました。

 

娘は、妻に自宅を残したいAさんの思いを理解してくれ、遺留分侵害額請求はしない、と約束してくれました。

 

「私の死後、娘の気が変わって、妻に対して遺留分侵害額請求をしないとも限りません。でも、今は娘を信じるしかないですね…」

 

Aさんは妻にすべてを相続させる旨の遺言を作成し、付言事項に、妻と娘への感謝の言葉と、娘に対して、妻のために遺留分侵害額請求をしないでほしい、と記載しました。

 

財産を特定の方に残したいとお考えの方は多くいらっしゃいます。遺留分対策を何もしなければ、ご自身の死後、財産を残された方が他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。しかし、できる遺留分対策にも限界があります。

 

財産を残したい相手がいる場合には、専門家に相談し、個別のケースに応じた遺留分対策を検討しておきましょう。

 

 

 

國丸 知宏
弁護士法人菰田総合法律事務所
弁護士

 

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