(※写真はイメージです/PIXTA)

「海外に移住すれば、日本の相続税はかからない」。相続税対策が必要なご家庭であれは、こんな言葉を聞いたことがあるかもしれません。しかし税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士は警鐘を鳴らします。課税を逃れ「海外移住」の落とし穴、その先に潜む「国際相続」のリスクとは?

海外移住すれば相続税はかからない…って本当?

富裕層の方とお話をしているとよく出てくる「海外移住」のキーワード。日本は、富裕層にターゲットを絞ったかのように、所得税、相続税を対象に実質的な増税傾向があります。海外では法人税や相続税がない国もあるため、移住が選択肢に上がってくるのは当然と言えます。

 

また、コロナ禍においてリモートワークが日常となり、世界中どこにいても仕事ができることが証明された今、従来通り行き来が自由になれば、温めていた「海外移住」を具体的に実行したいと思われている方もいらっしゃるのではないのでしょうか。

 

そんな中耳にするのは「海外に移住すれば相続税もかからないよね」というお言葉。実はとても危険です。今回はその言葉に潜んだリスクについて解説します。

「日本の相続税がまったくかからないケース」とは?

まったく日本の相続税がかからないケースというのは、実際にはこの場合にしかありません。「相続人、被相続人ともに海外居住、かつ相続対象財産すべてが国外にある場合」。

 

これは外国人同士の、外国にある財産の相続をイメージしていただくのが手っ取り早いのではないでしょうか。日本に縁もゆかりもない方の日本以外の財産については、当たり前ですが日本の税金はかかりません。

 

被相続人と相続人のいずれもが過去10年以内に日本国内に住所がなければ、「制限納税義務者」として国内財産のみが課税対象となり、国外財産については相続税の課税対象から外れます。

 

つまり、ご家族ともに国外に移住し、財産もすべて国外に移すこと。そして何よりも帰ってこないことこそがこの条件をクリアする要件なのです。これはなかなかハードルが高いのではないでしょうか。

 

日本の相続税がかかるケース、かからないケース

親が「終の棲家はやはり日本で…」と帰国したらアウト

ご高齢になるとやはり「日本の地で余生を迎えたい」、そう思われる方はたくさんいらっしゃいます。

 

実際に移住され、長らく海外の地で過ごされていた親御さんが、終の棲家はやはり日本でとご希望になり、ご帰国なさいました。そのまま海外に在住されていたご子息は、事前に親御さんから相続税はかからないようにすべて海外に財産も移してあると聞いていらっしゃったようです。しかし、いざ相続が発生した際、当初はかからないと思っていた財産までも「相続税」の対象となってしまったというご子息からのご相談を受けたことがあります。

 

基本的に被相続人と相続人のどちらかが日本国内に住所があれば、「無制限納税義務者」として、国内財産、国外財産のすべてが課税対象になります。

 

いったん帰国をすると「過去10年以内に日本国内に住所なし」のカウントが0にリセットされてしまいますので、たとえ相続人であるご子息が引き続き海外在住にいたとしても、「無制限納税義務者」に該当することとなります。

 

つまり事前にすべての財産を海外に移していたとしても、すべてが課税対象なのです。

 

もちろん細かい場合分けを検討すると、国内財産のみが課税対象となるケースもありますが、これはまれなケースと思っていただいても過言ではありません。

相続税はどこまでも追いかけてくる

どこまでも追いかけてくる日本の相続税。余生を考えるうえで税金だけではない海外移住のメリット、デメリットを場合分けして考えていくことが重要となりますね。

 

海外の税制はさまざまです。相続税はなくとも日本にはない税制システムが採用されているケースもしばしばです。

 

実際に移住される際には、相続税だけではなく、その国にはどんな税金があるのか、相続発生時にどの財産にどの国の税金がかかるのか、そういったところまである程度シミュレーションをしておく必要があるといえるでしょう。ぜひ海外の税制や手続きにも精通した専門家への事前のご相談をおすすめいたします。

 

 

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

 

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