自営業の夫、逝去…妻「死ぬまで働かないと、生活ができない」あまりに厳しすぎる現実【CFPが解説】

自営業の夫、逝去…妻「死ぬまで働かないと、生活ができない」あまりに厳しすぎる現実【CFPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の公的年金制度には、夫に先立たれた妻の生活を守るため「遺族年金」が整備されていますが、サラリーマンの妻と自営業の妻では、その手厚さに大きな開きがあります。二人三脚で自営業を営んでいた子のない夫婦のケースを例に、自営業の夫に先立たれた妻の年金シミュレーションを見ていきます。

50歳の妻…今後の年金収入では「約4,900万円」不足

夫婦2人でお店を経営していて、夫亡きあと、妻1人ではそのお店を続けていくことが難しい場合、遺族年金を受取れないとすると、妻の生活費はどうしたらいいのでしょうか。もちろん、妻が生活していけるだけの預貯金があったり、生命保険の死亡保険金が充分支払われていたりするのであれば、問題ありません。

 

そこで、妻が今後生活していくためには、どれだけの額があればいいのかを計算してみます。

 

総務省が実施している2021年の家計調査では、単身世帯女性の年間の平均支出金額は1,804,284円でした。月にすると約15万円です。そして令和3年簡易生命表(女)では、50歳女性の平均余命は約89歳となっています。ということは、

 

1,804,284円 × 39年 = 70,367,076円

 

50歳から89歳まで、約7,000万円の生活費が必要となります。

 

これに対して収入は、65歳から国民年金を受取ることができるので、妻が国民年金を満額受取れるとすると、

 

約78万円 × 24年 = 18,720,000円

 

国民年金は約1,900万円受取れます。

 

さらに、亡くなった夫が国民年金の保険料を10年以上支払っている、その夫との婚姻期間が10年以上ある、などのいくつかの条件を満たした場合、妻は「寡婦年金」というものを60歳から65歳まで受取ることができます。この例の場合「寡婦年金」を約45万円程度受取れると仮定すると、

 

45万円 × 5年 = 2,250,000円

 

寡婦年金は約225万円受け取ることができます。

 

そこで、必要な生活費から収入を差し引くと、

 

約7,000万円 - 約1,900万円 - 約225万円 = 約4,900万円

 

今後見込まれる年金収入では、約4,900万円生活費が不足するということです。

 

この不足額は、妻が国民年金を満額受給できると仮定しています。そして支払う社会保険料等は含まれていません。

 

さらに、大きな病気をしてしまう、要介護状態になってしまうなどの不測の事態の際の支出も含まれていません。それでも、妻が生活していくためには約4,900万円足りないのです。実際はもっと大きな金額の不足額となることが予想されます。

生涯働き続けるか、極限まで生活を切り詰めるか

それでは、この不足額に対して、預貯金や生命保険の死亡保険金がない場合、どうしたらいいのでしょうか。答えは、働いて収入を得るか、もしくは支出を極限まで切り詰めるかしかありません。

 

しかし、毎月15万円の生活費というのは、そんなに贅沢をしているとは考えにくいので、支出を切り詰めるのには限界があります。そこで、働いて収入を得るのが現実的ですが、これまで会社員として働いた経験が無く、ずっと自営業の50歳女性が、いきなり会社員として就職できるかというと難しいのではないでしょうか。

 

そこでもしパートとして働くとすると、どうでしょう。筆者の近所のスーパーでは、レジ打ちのパートが時給1,100円で募集されていました。もしそのパートを、年金受取開始の65歳まで、月曜日から金曜日の週5日、毎日5時間おこなったとすると、

 

5時間 × 5日 × 4週 × 12カ月 × 15年 × 1,100円 = 1,980万円

 

となり、これは4,900万円には程遠い金額です。

 

子どものいない自営業世帯は遺族年金を受取ることができません。たとえ子どもがいたとしても、その子が高校を卒業する年齢になると遺族基礎年金は支給が停止されてしまいます。

 

残された妻が生活していくためには、年金をもらい始めても、ずっと働いていかなくてはいけない、ということではないでしょうか。

 

 

高木 智子
ヨージック・ラボラトリー CFP

 

 

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