民事信託に必要な手続き
家族信託を利用する場合はどのような手続きが必要となるのでしょうか。
まず、自宅や預貯金などの一部、あるいは全部を管理してもらうための信託契約を締結します。信託契約は裁判所を通さないで利用することができます。しかし、「契約」するための判断能力を有しているうちに締結しなければならない部分は、任意後見と同じです。
先ほどもご説明しましたが、家族信託では所有権を移転することなく、名義を管理者に移転できるため、管理者の判断で売却できます。つまり、自身や家族が認知症になった場合でも、費用の捻出が可能です。
たとえば後見制度の場合、自宅の売却には必ず家庭裁判所の許可、審判が必要でした。一方、家族信託の場合、売却時も裁判所を通す必要がないので、急な費用の捻出にも対応できます。
信託契約書に関してどのような設計をすればいいかということに関しては、自身の財産情報によって大幅に異なります。定型の契約書はほぼ存在しません。専門家である司法書士や弁護士に依頼して信託契約書を作成してもらうことをおすすめします。
その場合にかかる初期費用はだいたい30万円からと思っていただければいいと思います。このように初期費用はかかってしまいますが、ランニングコストがかからないという点が後見制度とは異なります。
「任意後見制度」と「民事信託」の違い
「任意後見制度」も、元気なうちに、将来自分が認知症になったときに財産を管理する人を選んでおくという契約です。「任意後見制度」と「家族信託」の違いは、大きく分けて3つあります。
法的効力
まずは法的効力です。家族信託は、契約を締結したその日から効力を発揮します。自分の所有権を残して、管理権や名義を受託者に与えることで効力を発揮するのが家族信託です。
一方任意後見の場合は、判断能力が低下したときに初めて効力が発生するので、契約をしても効力が発生しない場合もあります。
コスト
コスト面での大きな違いもあります。家族信託の場合は、信託契約書の作成などで初期費用として30万から50万円が必要になります。しかし契約後のランニングコストは0円からとほとんどかかりません。
一方で任意後見の場合は、初期費用として裁判所申し立て費用などを含めて10万円程度です。しかしその後のランニングコストが必ず毎月1万円から必要になるという違いがあります。
後見監督人の有無
任意後見の場合は、財産を管理する人をさらに監督する、監督人と呼ばれる人が必ず必要です。家族信託の場合はこれをつける必要はありません。
監督人には必ずランニングコストが発生します。親族が後見人になったとしても、後見監督人は必ず就任します。後見監督人は裁判所が選任し、第三者が後見監督人になればランニングコストがかかるという大きな違いがあります。
実際に認知症になり、自宅を売却したい場合、任意後見では裁判所の許可が必要となるため、迅速な費用の捻出は難しいです。家族信託の場合は管理者の判断で売却することができます。
まとめ
将来の介護のことを考えれば、家族信託か任意後見いずれかを利用することをおすすめします。あくまで任意後見、家族信託というのは認知症になる前から対策できる方法です。法定後見はすでに認知症になってしまった場合の手段ですので、自身の実情と併せて検討して頂ければと思います。
<<<民事信託とは何ですか?【司法書士が解説】>>>
加陽 麻里布
永田町司法書士事務所
代表司法書士
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