日本では認知症の増加を背景に「民事信託」が注目されていると、永田町司法書士事務所の加陽麻里布代表はいいます。ただし、2006年の制度改定以前は使い勝手が悪く、「民事信託」にあまり良いイメージを持っていないという人も少なくありません。そこで今回、「民事信託」の仕組みやメリットのほか、混同されやすい「後見制度」との違いについて、事例を交えて加陽司法書士が解説します。

「民事信託」とはなにか

近年、超高齢社会の到来による認知症の増加を背景に、民事信託が注目されています。

 

将来的に、自身や家族の誰かが認知症を発症した場合、その財産を管理するのは非常に困難であり、トラブルに発展しやすいという現実があります。そこで現在、財産管理をサポートできる「民事信託」や「後見人制度」と呼ばれるものが、注目を集めています。

 

民事信託を一言で表すと、自分の財産を管理できる権限を信頼できる家族や人に託して、自分や自分が指定する大切な人の生活や財産を守ってもらうための仕組みです。

 

民事信託自体は歴史が古く、昔から信託法は存在していましたが、使い勝手が悪く、これまであまり使われてきませんでした。しかし2006年に大幅な改正があり、より使いやすくなったということで近年注目を集めています。

 

民事信託は、投資信託を家族間の問題に適合させた形で改良した制度です。つまり、家族による家族のための民事信託ということで、「家族信託」とよく表現されることがあります。

 

家族信託は、成年後見制度と比べて非常に使い勝手がいいです。成年後見制度は、実際に誰が後見人になるかわからないという不満や、後見人に第三者がついた場合には毎月のランニングコストがかかるというデメリットがありました。

 

さらに成年後見制度の場合は、全財産の管理を第三者がする可能性もあります。たとえば入院費を捻出したい場合に、自宅の売却に第三者の許可が必要になるというケースが発生する可能性も存在します。

民事信託によって可能になること

家族信託は、財産の一部を管理することが可能です。

 

たとえば、父親が家を持っているとします。この家に関する権利を細分化すると、父親は所有権、名義、管理権を有しているということになります。これを信託契約すると、父親が所有権をもったまま、名義と管理権だけをお子さんなどの信頼できる人に渡すことが可能です。

 

将来父親が認知症を発症して施設の入所費用が必要になった場合や、緊急にお金が必要になった場合、自宅を売却してその費用を捻出したいと考えても、父親が認知症になってしまったあとでは売買契約が締結できません。

 

しかし、あらかじめ信託によって子供に名義と管理権を渡しておくことで、将来父親が認知症になって判断能力が無くなったとしても子供は子供の判断で自宅を売却できます。

 

当然ですが、信託を行ったとしても所有権は父親のままなので、売却資金は父親のものになります。不動産という財産が現金に変わっただけですので、所有権は父親のままで財産の管理権を子供に与えることができます。

 

当然自宅の登記上の名義は信託によって子供に変わりますが、所有は父親のままですので、贈与にはならず、税金などはかからないということです。

 

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