長寿大国日本だが…最期の約10年は「不健康」?
日本は長寿国として世界的に知られています。
2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、ともに過去最高を更新しました。厚生労働省によると女性は世界第1位、男性はスイスに次いで世界第2位の長寿です。コロナ禍でも平均寿命を更新しているのは大変すばらしいといえます。
一方、健康寿命という指標があります。これは2000年にWHO(世界保健機関)が提唱したもので、「平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間」(厚生労働省)のことです。健康上の理由で制限を受けることなく日常生活を暮らすことができ、自分の身の回りのことを自分でできる期間が健康寿命といえます。
この健康寿命と平均寿命との開き、つまり、要介護状態で暮らす期間の長さが問題視されています。
WHOが発表した2021年版の世界保健統計によると、日本人の健康寿命は女性が75.5歳、男性が72.6歳であり、平均寿命との差が約10年もあることが分かります。男性も女性も死亡するまでの約10年は、寝たきりになったり、認知症になったりと、誰かの介護を受けながら不自由な生活を送ることが多くなっているということです。
これは何も日本に限った問題ではありません。世界各国で、介護を必要とする期間の拡大は懸念されています。誰しも健康な毎日を送りたいと願うものですが、介護期間が長いということはそれだけ医療費を含む社会保障負担が増えることになるため、国家としても大きな課題となっているのです。
アメリカの予防意識が高い理由
健康寿命を延ばすためには病気にならないことが必須であり、そのためには自身で病気を予防することが必要です。
欧米の先進国では、30年以上前から病気になる前に予防する「予防医学」を国策として取り入れています。アメリカを例に挙げると、アメリカでは1979年に米保健福祉局(HHS)が中心となり、乳児、子ども、未成年、成人、高齢者の5ライフステージ別に目標を設定した「ヘルシーピープル」を公表しました。さまざまな健康項目ごとに具体的な目標値を掲げており、現在でも目標と現実とのギャップを埋めるために10年ごとに見直され、アメリカの健康政策の指針になっています。
またアメリカはサプリメント大国といわれており、国民の約7割がサプリメントを摂取しています。2018年度のアメリカのサプリメント市場は244億ドル(約2兆6700億円)であり、依然として拡大基調が続いています。市場拡大の要因の一つとして、医療費負担の増大と健康意識の向上を背景に、消費者が疾病の治療から予防に焦点を移しつつ、より健康的なライフスタイルを求める傾向が強まっていることが挙げられます。
さらに、アメリカ医学会は「食」「ストレス」「運動」「環境」にフォーカスを当てた「ライフスタイル医学」を推進しており、患者だけでなく医療者の教育にも力が入れられています。
アメリカで予防医学が浸透しているのには、公的な医療保険制度がないことが大きく関係しています。
アメリカの公的医療保険は、65歳以上の高齢者や障害者、低所得者のみを対象とするものであり、現役世代は民間の保険会社と契約しなければなりません。あくまで民間の商品であるため、どの病気をどの程度保障するかは千差万別です。保険の加入自体も義務ではなく、未加入の人も多数います。そもそも医療費自体が高額なこともあり、保険を適用しても保険料が高額になることは避けられません。
このように、公的医療保険が存在しないアメリカでは、病気にかかってから病院に行くと非常に高額な医療費が掛かるため、予防意識が徹底されているのです。