(※写真はイメージです/PIXTA)

健康寿命を延ばすためには病気にならないことが必須であり、そのためには自身で病気を予防することが欠かせません。欧米の先進国では、30年以上前から病気になる前に予防する「予防医学」を国策として取り入れています。一方日本はというと、世界有数の医療先進国でありながら予防医学の浸透は遅れています。日本人がこのまま「予防弱者」でありつづけるとどのような問題に直面するのか。歯科医師の金子泰英氏が解説します。

年々増える介護保険料。75歳以上の医療費負担も増額へ

このまま多くの日本人が予防弱者のままでいた場合、今後さまざまな医療問題に直面することが予想されます。単に健康で過ごせる期間が短くなるという問題だけでは済みません。

 

まず、医療費の増大について、無視できない影響を及ぼします。

 

前提として、年金、医療、介護、子育てといった分野にかかる日本の社会保障費は、国の予算全体の3分の1を占めています。2021年度は、2020年度の当初予算より1507億円増え、過去最大の35兆8421億円となりました【図表】。超高齢社会では、高齢者の医療費がかさむことで、現役世代の健康保険料が上昇することも問題となっています。「支えられる側」の高齢者が増加する一方で、「支える側」の若者が減少するため、社会保障費が逼迫してしまうのです。

 

財務省「令和3年度予算のポイント」より作成
【図表】社会保障関係費の割合 財務省「令和3年度予算のポイント」より作成

 

そのため、2022年後半からは、年収200万円以上の75歳以上の後期高齢者の医療費負担を1割から2割に引き上げることが決定しました。40歳以上の健康保険加入者が支払う介護保険料も年々増加しています。

 

こういった状況を受けて、厚生労働省は医療費削減のためにがん検診や生活習慣病の予防に力を入れるなど、予防医療を推進しています。しかし、その施策が功を奏しているという報告はまだありません。

誰もが「必要なときに診てもらえない」に直面しうる

予防弱者が増えることは、医療費だけでなく、医療全体の逼迫にもつながりかねません。「病気になったら病院で診てもらう」ことが当たり前の日本でしたが、新型コロナウイルスの蔓延によって病床が逼迫した際には、「具合が悪くても入院できない」「救急車を呼んでも来ない」という事態が発生しました。

 

感染症の蔓延はいずれ落ちつくかもしれません。しかしこの経験は、今後超高齢社会がますます深刻化するなかで、自分が病気にかかっても治療を受けられない状況が起きるのではないかという想像を抱かせ、不安を感じさせるに十分なものでした。

 

広く知られていることですが、社会の高齢化の進行を示す言葉として、高齢者(65歳以上)の人口の割合が全人口の7%で「高齢化社会」、14%で「高齢社会」、21%で「超高齢社会」とされています。2017年の総務省の統計によれば、日本の高齢者人口の割合は28.7%でした。次の言葉を新しく考えないといけないレベルです。内閣府の「令和2年版高齢社会白書」では「2036年に33.3%で3人に1人が65歳以上に、2065年には38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となる社会が到来すると推計」されており、今後も高齢化は進行の一途をたどる見込みです。

 

高齢者ほど、身に不調を抱えることが多くなり、病院にかかる機会が増えるのは当然のことだとすれば、日本の医療が、この急速な高齢化に対応できるのか疑問を感じずにはいられません。

 

わが国では、病床だけでなく医師が足りないという問題もあります。これは地方では特に顕著で、依然として無医地区とされる地域もたくさんあります。高齢者は増え、病院にかかる人は増えるのに、医師が少ない。当然ながら、医療をスムーズに受けることが難しくなっていくのです。

 

これは医科だけでなく、歯科も同様です。私は栃木県で開業していますが、地方では人材が集まらないという問題に直面します。私もそのうちの一人です。私は東京の大学に通っていたので、そのまま東京で開業すれば大学を通じて知り合った知人を頼ることもでき、人手に困ることはなかったでしょうが、その後地元の栃木で開業するとなると、常勤で一緒に働いてくれる歯科医師を探すのは困難でした。

 

そもそも、地方は都市に比べて健康意識が低い傾向にあります。少し古いデータになりますが、厚生労働省の「国民健康・栄養調査(平成22年)」のなかの「都道府県別の肥満及び主な生活習慣の状況」によると、肥満者(男性のみ)の割合が高い都道府県は上から沖縄県、宮崎県、栃木県、福島県、徳島県という結果でした。

 

また、1日の歩く歩数の少なさでいうと男性は鳥取県、青森県、新潟県、女性は山梨県、秋田県、鳥取県が少ないという結果が出ています。ほかにも、習慣的に喫煙している者の割合、飲酒習慣者の割合などにおいても地方が上位を占めています。理由は食文化や気候、交通網の発達度合の違いなどさまざま考えられますが、地方の健康意識が低いことは明白です。健康意識が低いということは高齢になって病気にかかる人が多いということでもあります。そうなると治療するだけで手一杯になり、結果として地方の医師は人手不足に陥っているのです。

 

このまま高齢化が進行すれば、「医師は少ないのに、患者が増える一方」という状況がより深刻な問題として多くの人の身に降りかかることになります。治療が必要な状態なのにすぐに医師に診てもらえない、いわゆる「医療難民」が増えることが予想されます。

「病気を未然に防ぐ」という意識に変えることが重要

実際に、病院に行って診察まで何時間も待たされた経験は誰にでもあるものだと思います。予約システムを上手に取り入れている医院も増えてきていますが、「病気になってから治す」という意識を変えない限り、誰もが将来、治療を受けたいときに受けられないという事態に陥る可能性はなくならないのです。

 

高齢化と同時に少子化も進むなか、医師の人数が急激に増えるということは、よほど大きな政策の転換でもない限りあり得ないように思います。「何かあったら医者に頼る」という考え方自体を変えていくことがかつてなく重要になっています。そのためにも、予防医療への関心を高める必要があるのです。

 

 

金子 泰英

医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長

 

 

※本連載は、金子泰英氏の著書『予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

金子 泰英

幻冬舎メディアコンサルティング

「病気になったら治す」では、気づかぬうちに病魔が進行していることも…。 病気は「治す」時代から「予防する」時代へ! 医療技術の進歩がめざましい今、欧米を中心とした先進国では「予防医学」が着目されるようになって…

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