「認知症になるリスクを下げる方法」とエビデンス
あるドクターが認知症に関する講演を行ったあとに、参加者から「認知症にならないためにはどうすれば良いでしょうか?」と質問されたそうです。そのドクターは「そうですね、長生きしないことです」と答えた、という話を製薬会社の方から聞きました。
ブラックユーモアのような答えですが、「高齢になればなるほど認知症の罹患率が高くなる」という現象を逆に考えれば、そういうことになります。
それはさておき、認知症になるリスクを下げる方法はいくつか知られています。
バランスの良い食事を取る、適切な運動をする、メタボ疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の予防または治療をする、タバコは吸わない、社会活動に参加する、などです。これらは、健康的に長生きするために、医者が患者にアドバイスするのと同じような内容で、特に目新しくないようにも思えます。
しかし、医学的にすすめるからにはきちんとしたエビデンスがあるのです。
2019年の5月にWHO(World Health Organization)から、認知機能低下および認知症のリスクを軽減するためのガイドラインが初めて出されました(※注1)。
彼らは身体活動(つまり運動すること)やメタボ3疾患のコントロール、食事内容など12項目についてさまざまな研究を集め、分析し、それぞれを認知症予防策としてすすめるかどうかの度合いの強さとエビデンスの質について検討し、論議し、結論を出しました。
それによると、強くすすめられるのは、身体活動、禁煙、バランスの取れた食事、高血圧と糖尿病の良好なコントロールでした。また、社会活動に参加することや、過度の飲酒はしないことがすすめられました。
逆に、すすめないものはサプリメントの使用と脳トレなどの知能訓練でした。
サプリメント使用にて認知症や経度認知障害の発生率の低下には直接的な効果は認められず、知能訓練も認知能力の低下予防に結びつくというエビデンスの質は低かったとのことです。
そして、WHOのテドロス事務局長(今や新型コロナウイルスで世界的に有名になった方です)は、これらの推奨事項について、「心臓に良いことは脳にも良い」とコメントしています。