●ペロシ米下院議長が台湾を訪問し蔡総統と会談、中国は猛抗議し台湾を取り囲む軍事演習へ。
●8月2日の日米株式市場はリスクオフの動きに、ただ中国側の行動が想定内で翌3日は株価反発。
●現状、これ以上の衝突は米中とも有益ではない、ただ株式市場は今後、台湾リスクを強く意識へ。
ペロシ米下院議長が台湾を訪問し蔡総統と会談、中国は猛抗議し台湾を取り囲む軍事演習へ
米民主党のナンシー・ペロシ下院議長は8月2日、台湾に到着しました。下院議長は、大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職で、現職の下院議長が台湾を訪問するのは1997年のギングリッチ氏以来25年ぶりとなります。ペロシ氏は8月3日に台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談し、台湾との連帯を強調(図表1)、蔡氏もペロシ氏の訪問を歓迎しました。
これを受け、中国外務省は8月2日、台湾当局と米国を非難する声明を発表し、8月4日から台湾を囲むように設定された6ヵ所の海域や空域で、軍事演習を実施することを明らかにしました。中国政府は、「一つの中国」原則のもと、台湾は中華人民共和国の一部であるとし、台湾問題を最大の核心的利益と位置づけています。そのため、ペロシ氏の台湾訪問は、中国にとって内政干渉ということになります。
8月2日の日米株式市場はリスクオフの動きに、ただ中国側の行動が想定内で翌3日は株価反発
一方、金融市場に目を向けると、ペロシ氏が台湾を訪問する見通しとなった8月2日の東京市場では、米中関係が悪化するとの思惑から、日経平均株価の下落や、ドル安・円高の進行など、リスクオフ(回避)の動きが強まりました。また、同日のニューヨーク市場でも、ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数の主要3指数がそろって下落しました(図表2)。
しかしながら、翌3日の東京市場では、ペロシ氏の台湾訪問を受けた中国側の行動が、おおむね想定内だったことから、リスクオフの動きが後退しました。日経平均株価は反発し、ドル円は、前日の米金融当局者のタカ派発言などもあり、ドルの買い戻しもみられました。3日のニューヨーク市場でも、ペロシ氏が無事に台湾を離れたことや、一部経済指標の良好な結果などを受け、主要3指数はそろって反発しました。
現状、これ以上の衝突は米中とも有益ではない、ただ株式市場は今後、台湾リスクを強く意識へ
これらの動きを踏まえると、株式市場は、今回のペロシ氏の台湾訪問という材料を、いったん消化したと思われます。米ホワイトハウスは、反発を強める中国に対し、「1つの中国」政策(米国は原則ではなく政策と呼ぶ)は不変との見解を示していますが、秋の中間選挙を控え、民主党が国内外に米国のリーダーシップをアピールする狙いがある、との声も聞かれます。
また、中国も秋に共産党大会を控えており、3期目をめざす習近平(シー・ジンピン)国家主席は、米国に強気の姿勢を維持する必要があるとも考えられます。そのため、米中の国内事情を踏まえると、現時点でこれ以上の衝突は、双方にとって有益ではないように思われます。しかしながら、今回のペロシ氏の台湾訪問を機に、株式市場は今後、台湾の地政学リスクを強く意識するようになると考えます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「ペロシ米下院議長の台湾訪問」が米中関係と株式市場に与える影響について【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト